水はH2O
その日、国王様に呼び出されて先生と私は謁見の間に案内されていた。
「ライガイヤ!お前の弟子なんだがな…」
「あげませんよ。」
「そう言う事じゃない!ビルフールやウィンシャスが言っていた。」
「ストラーダ君が可愛いって?」
先生………私がいたたまれません。
私のひきつった顔に国王様は苦笑いを浮かべた。
「そのストラーダは良い子だが、お前の変態ぶりに困っていると!………お前なら女性を選びたい放題だろ?それなのにその子が良いのか?」
「当たり前だろ?ストラーダ君ほど俺の理想そのままな子は存在しない。邪魔するなら滅ぼすよ。」
私はため息を一つつくと言った。
「先生、国王様は先生を心配して下さってるんですよ‼」
「心配?」
「魔導神なんて大層な名前がつくほどの人が人目もはばからず変態具合を披露したら心配するでしょうが?」
「ストラーダ君。」
「はい?」
「俺のテリトリーに入ってくるあいつらが悪いと思わないか?」
「自分は先生と二人っきりの時間に、時折恐怖を感じるのでウェルカムですけど!」
「………我慢しているんだが?」
「ええ、我慢とか普通に言ってくるから怖いんだって解んないかな?」
先生はニコッと笑った。
これは私が怯えているのも解っているって事か?
「ライガイヤ、少しストラーダと離れてみてはどうだ?とりあえず1週間ぐらい。」
「!殺されたいのか?」
「!じ、じゃあ半日。」
国王様は顔をひきつらせている。
どんだけビビりだよ国王様。
一週間から半日ってどんなペース配分だよ?
「ら、ライガイヤ、ストラーダもお前だけに魔法を教わるより他にも教えてくれるやつがいた方が良いんじゃないか?」
「………ストラーダ君はどうしたい?」
「へ?選んで良いなら他に教えてくれる人が居るのは嬉しいですよ?」
「浮気だ‼」
「付き合ってるみたいな言い方止めろ‼」
「最近ストラーダ君は俺に厳しくないか?こっちに来る前はあんなに先生、先生って寄ってきてくれたのに………」
「それ、先生が自分にストーカーしていたって知る前の話ですよね?」
「………」
私は国王様に手を上げて見せた。
「はい!自分、他の人にも教わりたいです!」
「そうか、ならビルフールのところに行け。ライガイヤが滅茶苦茶睨んでるからきっかり半日だけ。」
「はい!了解です‼………先生。」
「?」
「自分の我が儘を許してくれてありがとうございます。夕飯は自分が先生の好きなものを作りますね。」
「………楽しんでおいで。」
先生は苦笑いを浮かべて私の頭を撫でてくれた。
私は嬉しくてへにゃっと笑った。
何故か先生に思いっきり抱き締められたが少しだけ我慢した。
「今日、半日だけ僕の授業をうけることになったストラーダ君だ!君達も仲良くね!」
「す、ストラーダと言います………よろしくお願いします。」
王宮魔法使い様の所に行くと5人の青年?が居た。
5人は私を見ると眉間にシワを寄せた。
歓迎されていないのは明らかだった。
「彼はたしか色仕掛けで魔導神様の弟子になった者ではありませんか?」
「とうとう捨てられてしまったか?」
「所詮は男と言うことか?」
「大人しく田舎に帰れ!」
「魔法使いにしがみつくのはどうかと思うぞ?」
5人は口々にそう言った。
「こら!皆は解ってない。魔導神と言う人間が認めて連れてきた人間がどれだけ貴重か。」
「王宮魔法使い様!良いです!色仕掛けとか、どうやったら良いのかも解らないことは置いといて自分には帰るところがないので必死でやります。皆さんの迷惑にならないように頑張ります!」
「ストラーダ君。彼らは一応僕の弟子でね。普段は気のいい奴らなんだけどごめんね。」
王宮魔法使い様が苦笑いを浮かべてた。
今、滅茶苦茶苦労しています。
王宮魔法使い様の魔法の教え方は訳がわからない。
「まず水瓶の中の水をすくい、水の精霊の力を借りて水の流れをグルグルとすると爆発させられるよ!やってみて。」
???????
意味の解らない説明に次々と回りが成功していく。
私は意味が解らなくてどうして良いのか解らないまま半日がたとうとしていた。
「ストラーダ君には難しいかな?」
「いや、先生の教え方と違いすぎて………意味が解りません。ごめんなさい。」
王宮魔法使い様のお弟子さん達がクスクス笑っている。
情けない自分に悲しくなる。
「ストラーダ君!迎えに来たよ。」
その時、先生が迎えに来てしまった。
「先生。」
「ストラーダ君には精霊なんて意味が解らないだろ?」
「何なんですか精霊って?」
「?解らん。ストラーダ君、水は原子記号で?」
「H2Oです。」
「OからHを取ると?」
「H2を取り出す?……水素!水素を作るってことか!」
「やってごらん。」
先生の説明に私は水瓶の水をすくい上げ頭に水素爆発を思い浮かべた。
その瞬間手の中から火柱が上がった。
「先生!」
「やりすぎ。」
「ふぇ?水素爆発ですよ?ポワっじゃなくてボォ~ンでしょ?」
「………加減の仕方を教えよう。じゃないと城ごとぶっ飛ばしても可笑しくないからな。」
「………水素爆発。」
「ストラーダ君、水素燃料の話をしよう。」
「!教えてください‼」
私は王宮魔法使い様に頭を下げた。
「あの王宮魔法使い様、自分はやっぱり先生の授業じゃないと駄目みたいです。教えて下さってありがとうございました。」
「うん。そうみたいだね。僕はライガイヤ様の話の方が意味が解らないけど、君にはあってるみたい。君の先生には慣れなかったけど何かあったら僕も力を貸すから試しに相談してね?」
「ありがとうございます。」
私はニッコリ笑って見せた。
その時、背後からギュッと抱き締められた。
先生だろう。
「浮気だ。」
「だから付き合って無いでしょうが?」
「ストラーダ君、そろそろ諦めたら?」
「先生はストーカーでド変態だから………」
「ストラーダ君が可愛いからだよ。他の誰にもしない。」
「それ、喜ぶとこじゃないから。」
「そうかな?」
先生は私を抱き締める手の力を強めた。
「ライガイヤ様、ストラーダ君を離してあげてください。」
「やらないぞ?」
「ストラーダ君が嫌がってますよ!」
「そんなこと?もう、ストラーダ君は慣れっこだ。」
先生、それはそうなんですけど………
「王宮魔法使い様、先生の機嫌を損ねると何かと面倒臭いので大丈夫です。我慢できます。」
「そうだ!抱き締めるのも我慢できるならキスの1つも許してくれて。」
「そんなことしやがったら嫌いになるだけじゃすまないですから。調子に乗らないで下さい。」
「ええ~。」
私は先生の手を盛大につねってやった。
「痛いんだけど。」
「離れるようにやってんですよ。」
「はいはい。ストラーダ君は厳しいな~。じゃあ、そろそろ講義もあるし帰るかい?」
「水素爆発、水素燃料ですね!速く帰りましょう!」
「水素爆発でフェニックスを作るなんてどうだい?」
「‼先生出来るの?見たい!」
「ストラーダ君からハグしてくれるなら。」
「するする!するから絶対見せて下さいね。」
「勿論。じゃあなビルフール。」
先生はそう言うと私を抱え上げた。
横抱きに先生の腕に腰かける形の抱っこだ。
「先生、自分で歩けます。」
「半日も離れててあげたんだからこれぐらいさせろ。」
「………うっす。」
先生はニコッと笑うと何かの詠唱を始めた。
その次の瞬間には先生の寝室に瞬間移動していた。
「押し倒していい?」
「やったら、舌噛んで死にます。」
「………ごめん………もう少しだけ抱き締めてて良い?」
「あ、じゃあ、水素爆発の話始めて下さい。抱き締められながら聞きますから。」
「ムードもへったくれもない。」
「ムードとかいらないっす。始めて下さい。」
先生は深い深いため息をついたのだった。
先生は多分半日ストーキングしていたに違いない。