ケーキ屋さんに行きましょう。
先生に異世界に連れてこられて1週間がたった。
まわりには私が先生の弟子だと言う事が定着し始めていた。
「先生、自分は何のために異世界トリップしたんでしたっけ?」
「俺の嫁にするため!」
「………聞かなかった事にします。」
「嫁。」
「聞かない。」
「よ~め~。」
私は耳をふさいだ。
先生はジト目で私を見ていたが嫁嫁言うのは諦めたようだ。
この頃では先生のお使いで城の外に行くことも許された。
先生に渡されたネックレスをつけていればって条件付きだが。
人さらいが居るかららしい………
先生がそれを言うか?って思ったけど知り合いに拉致られるのと見知らぬ人に拉致られるのは違うと思うからネックレスをつけている。
話は代わって先生が毎日仕事をやっている………
仕事を片付けるたびに手を広げられている。
ガン無視だけど………
「道君………」
「はい。」
「ハグ。」
「毎回やるなんて言ってません。」
「………」
「先生が仕事している姿は好きです。格好良いって思ってます。」
「ならハグ。」
「先生はこの間ハグした時、自分に何をしましたか?」
「………首筋にキスしたかな?」
「それがなければ毎日ハグしていたかも知れません。」
「………」
先生は困ったような顔をして私を見つめた。
「道君の可愛い首筋を見たら我慢出来なくなる。」
「だから!ハグしません!」
先生は私の手を掴んだ。
「道君。君の事が好きなんだ!だからちょっとだけハグ。」
「先生が自分を好きなのは解りました。ですが、自分の先生への気持ちは尊敬です。恋情はありません。」
「監禁。」
「卑怯だよ先生!今は恋情ないかも知れないけど、これから出てくるかも知れないでしょ?脅すと嫌いになる!」
「………ごめん。」
シュンとしてしまった先生が何だか可哀想になってくるのは、先生がイケメンだからだろうか?
私は仕方なく先生に抱きつくとちょっとだけ先生を見上げて言った。
「今は尊敬してるんです。それじゃ………駄目?」
先生は驚いた顔の後私を強く抱き締めた。
しかも、耳元で囁かれた。
「道君。上目使いで俺を見上げるなんていけない子だ。」
ゾワッとした。
先生!ゾワッてしました‼
しかも、軽く耳朶にキスされた。
「先生……嫌だ……」
「道君。」
「キモい‼」
先生は顔をひきつらせて離れた。
「き、キモい………」
「………だって………キモかったんだもん………」
先生はベコベコに凹んでしまったようだった。
「あ、ああ~の先生!お茶菓子買ってきます‼」
私は急いでその場から立ち去った。
また監禁とか言われたら嫌すぎる。
門番の人と一言二言話をしてから街へ。
先生に教えてもらった美味しいケーキ屋さんに向かうと、ケーキ屋さんの店の前に怖い顔をした宰相様がケーキ屋さんを睨んでいた。
「宰相様?ケーキ屋さんの方を何で睨んでいるんですか?営業妨害で訴えられますよ?」
宰相様はチラッと私を見ると言った。
「陛下にここのケーキを買ってくる様に言われた………俺の好みで買うと甘すぎると文句を言われる。」
「何を買うか悩んでる顔って事ですか?怖すぎですよ?」
「………ライガイヤのとこのガキンチョは何してる?」
「ああ、自分は先生をぼこぼこに凹ましちゃったのでご機嫌とりにケーキを買いに………」
私のセリフにかなり驚いた顔を宰相様が作った。
「あれは、凹んだりしないだろ?」
「キモいって言ったら凹んじゃいました。今ごろ部屋の隅っこで膝でも抱えてるんじゃないですか?」
「嘘だろ?お前すごいな……」
私は苦笑いを浮かべて頭をかいた。
「一緒に選びましょうか?」
「………良いのか?」
「良いっすよ!その代わり自分のケーキ代も出して下さい。」
私は自分の胸を親指でトントンと叩いて言った。
宰相様はハハハっと笑った。
「お前チャッカリしてるな!解った。お前の分も俺が出してやる。」
こうして私は宰相様のお使いのお手伝いをしたのだった。
私が今まで食べて美味しかったと思うものを宰相様にすすめた。
そして、まだ食べていないものをいくつか選び珈琲風味のチョコケーキを最後に頼んだ。
「これ、先生が好きなんです。」
「ライガイヤが?」
「はい。自分は先生が居なかったら住むところも仕事もなくて路頭に迷うところだったんです。だから先生には感謝してるんです。少しぐらい甘やかしてあげないと捨てられちゃ………いや、監禁されちゃう。」
「はぁ?監禁って………」
「先生ストーカーだから!実力行使されたら勝てないし………」
「お前大丈夫なのか?」
「………先生は自分の嫌がることは絶対しないって言ってくれましたから!………それを信じないと怖すぎる……ハハハ~頑張ります!」
宰相様は心配なのか先生の待つ執務室まで私を送ってくれた。
「先生!ケーキ買ってきました‼一緒に食べましょ!」
「………後ろのソイツは何だ?」
「資金提供者様です!」
宰相様が嫌そうな顔をしたが、知らん!
「先生!機嫌なおして!」
「………」
「………先生……ケーキ食べさせてあげるから機嫌なおして。」
先生は驚いた顔の後へにゃっと笑った。
何その顔!好き!
私は先生の笑顔に見とれてしまった。
「ストラーダ君からそんなこと言うなんて………」
「ご機嫌になりました?」
「そうやって簡単に俺の機嫌をなおしてしまうなんて、どこで教わって来たんだ?」
「一週間も一緒に居れば解ります。」
私は得意気に笑って見せた。
「可愛いな~キスしたくなる。」
「やったら嫌いになります!調子にのんないで下さい。」
「………酷い。」
先生を再び凹ましてしまった。
そんな私達の後ろで宰相様が真っ青になっていたなんてこの時の自分は気付きもしなかったのだった。