第六話 チート化する勇者
ハヤトを転移させるとき、私もヘッドホンとリストバンドを付けることで、はじめてナビゲーターとしてコンピュータに認証され、創造したゲームが起動するしくみなのよ。
「じゃあ、友だちとか知り合いとかと一緒にやればいいだろ。なんでわざわざアルバイト募集の張り紙までつくって知らないやつを呼んだんだ」
それはまあ、たまたま近くに知り合いがいなかったというか、みんな今日は忙しいそうだったから声かけにくかったっていうか? そんな感じ。
「……レオニラ。まさかとは思うけど」
なに。
「お前、ぼっちか」
そうともいうわね。
「はぁぁ……」
勇者は深くため息をついた。それは、あまりに強大な敵に対する冒険の厳しさをようやく実感したからでもあった。
「イオネラのせいでこうなってるんだろうが! 俺、本当に元の世界に帰れるんだろうな……」
大丈夫。魔王を倒せば帰れるって設定になってるから、帰れると思うわ。きっと。たぶん。
「頼りねえな! ってか魔王って、さっきの話だとめちゃくちゃ強そうなんだけど。百万の軍勢でもかなわなかったとか」
そのへんは大丈夫よ。私としては今回のゲームを試験版と位置づけているから、被験者である勇者ハヤトには敵に卑怯者と非難されるくらいのチート能力が身についているの。だから魔王なんて楽勝、楽勝♪
「ほんとかよ……。で、そのチート能力ってのは、どういうものなんだ」
じゃあその前にまず、ハヤト自身の基本的なステータスから説明するわね。
まず、リストバンドにも出ていたけど、このゲームに存在する生物には全て四つのパラメータが設定されているの。
【strength】【dexterity】【intelligence】【vitality】の四つ。それぞれ「腕力」「敏捷力」「知力」「体力」を示しているわ。
ハヤトの現在のステータスは、こう。
【strength】(腕力) :8
【dexterity】(敏捷力) :8
【intelligence】(知力):8
【vitality】(体力) :8
「……全部8か」
ちなみに平均的な人の値は「10」ね。
「平均以下じゃねえか! こんなんで魔王に勝てるのかよ」
慌てない慌てない。これはあくまで大学生である現在のハヤトの純粋な現在値を示しているだけだから。
「それ、けっこう傷つくんだけど……。全能力値平均以下ですか……」
まず、ここでひとつめのチートね。
ハヤトはこのステータスのうちいずれか一つを、5000にすることができまーす。
「5000!? それはすごいけど……いや、それって均等に配分できないのか? 例えば、全能力を1000ずつにするとか」
増やせるのはひとつだけよ。
「なんでそんな不便なチートにしたんだよ……。えっと、このゲームで俺が死ぬ条件は?」
体力が0になることね。
「体力5000でお願いします」
いくじなし。
「当たり前だ。死んだら元も子もないだろ。てかほんとに体力0になったら俺、死ぬのか?」
実際には、このゲームで主人公が体力0になると、救済措置が発動するの。それももちろん、私の方で設定しているんだけどね。
「じゃあ俺がもし魔王と戦って体力0になったら、どうなるんだ」
それは、なってからのお楽しみということで。
「楽しめるか! 命がかかってるんだぞ!」
ま、5000もあれば、即死イベント以外で死ぬことはまずないから、心配しなくてもいいんじゃない?
「即死イベント! そんなのがあるのか?」
だれでも高い崖の上から落ちたり、川でおぼれたりしたら、体力に関係なく死ぬのと同じよ。これはあくまで戦闘時の耐久力や基礎的な体力が上がったと理解したほうがいいわ。
「なんか釈然としねえけど……。チートはこれだけかよ」
まさか。もちろん、まだあるわよ。
このゲームに登場するキャラクターは、基礎ステータスのほかに【種族特性】【冒険者技能】【戦闘技能】【特殊技能】があるの。
【種族特性】は、キャラクターの種族――人間とか、エルフとか、ホビットとか――ごとに設定された能力よ。
ハヤトは当然「人間」だから、種族特性も人間のものになるの。
「人間の種族特性は?」
人間の【種族特性】は「文明の力」よ。
人間の発達させてきた技術に根差した物品――車や電化製品、それに銃とかが使えるの。ほかの種族には扱えないし、装備もできないから。すごいでしょ。
「でもここ、世界設定は中世ごろなんだろ。車とか銃なんてあるのかよ」
ないわ。
で、次の技能は【冒険
「まてまて!! ないのかよ! それじゃこの技能、全然役に立たねえじゃねえか!」
仕方ないでしょ。中世なんだから。車とか銃なんてあるわけないじゃない。そんなにほしければ自分でつくれば。
「この世界を創ったのはお前だろおがぁぁぁ……!!」
ああっ、勇者ハヤトの怒りがMaxに! これは最終奥義が出る寸前ね!
「出せるならほんとに出したい……」