第四話 王妃って猫好きじゃないですかー
さて、王妃はまだ勇者ハヤトに伝えたいことがあるようよ。
『ハヤト様ー。ささやかながら、旅の資金を用意したんでー、もってって下さいー』
すると控えていたメイドが、巨大な布袋を手渡してきた。
「お、ありがとうございます。これで武器とか防具を買えばいいんだな」
中には一万ベリー金貨が一万枚、計十億ベリー分入っているわ。重量にして約五十キロ。
「重っ! こ、こんなのもって歩くのかよ!? てか十億ベリーって、どのくらいの価値なんだ」
日本円にするなら、だいたい一万円くらいね。
「絶対インフレ起こしてるだろこの国……」
『あと、これももってってー。きっと旅の役に立つと思うのー』
メイドがどこからか大きな宝箱を持ち出して、ハヤトのそばに置く。
「おっ、武器かなにかか?」
宝箱を開くと、中には「ネコじゃらし」が入っていた。
「……は?」
おめでとう! 勇者ハヤトは「ネコじゃらし」を手に入れた!
「いや、なんだよこれ。どうやって使うんだ? あ、なにか魔法がかかっているとか」
『ううんー。魔法はかかってないのー。ごく普通のネコじゃらしよー』
「……ええと。これはどうやって使えばいいので?」
『ほらー。王妃って、ネコ好きじゃないですかー』
「はぁ」
『でー。旅をしてると、村とかでネコに会うじゃないですかー』
「はぁ」
『そのときこれをネコの前でふりふりしたらー。ネコがなついてくるんですよー。そしたら癒されるじゃないですかー』
「はぁ」
『ねー。いい道具でしょー』
「…………あの、俺、そろそろガマンの限界なんだけど」
トイレなら城の二階にあるわよ。
「そっちの話じゃねえ! この王妃、本当に俺一人で魔王と戦わせる気かよ! 緊張感なさすぎるだろ!」
『だって……ぐすん……王妃、武器なんて知らないし……どうしたらいいか分からなかったからー……』
そう言いつつ、これみよがしに両目の涙をぬぐう王妃。控えていたメイドもますます眉をひそめている。
「すみませんでした! 悪いのは俺です! 本当に申し訳ありませんでした! これでいいですか!!」
『ぐすん……。あの、あと、装備が整ったら、とりあえず隣の村に行ってみたらいいと思うのー。そこには千年間生きる魔女が住んでいるみたいだからー。なにか魔王さんの弱点とかー、知ってるかもしれないのー』
「はぁ、そうなんですか……。じゃあまずはそこへ行ってみます……」
『頑張って下さいねー。魔王さんを倒したら、ハヤト様の食べたいもの、なんでもごちそうするからー』
「そんなことより早く元の世界に帰してほしいんだけど……」
こうして勇者ハヤトは、魔王を倒すために立ち上がったのだった。
小国カナンの人々を救うため。そしてこの世界の平和を取り戻すために。
いけ、ハヤト! やれ、ハヤト! その卑怯なチート能力で魔王なんてひとひねりよ!!
「レオニラといい王妃といい、この真剣味のなさ、なんとかならないのかよ……」