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第二話 勇者一日五万円


 天井が高い。廊下の脇には何本もの白い柱が立ちのぼっている。

 夜なので廊下は薄暗い。それを柱に備えられた松明の炎が照らす。もちろん、電球などは無い。

 彼の見知った世界からかけ離れた、中世時代の王宮の風景がいま、彼の視界に広がっていた。


「いや、物々しく語ってんじゃねえ、よ……」


 でも、驚いたでしょ。


「これ……本物の柱か? 廊下に敷かれた赤い絨毯も、焚かれた松明も。天井もすげえ高いし……。大学の近くにこんなところあったか?」


 だから異世界だって言ってるじゃない。あなたの住んでいた世界とは違う世界にトリップしたのよ。


「いや、全然信じてねえんだけど。でも、たしかに大学の周りにこんな建物、なかったな……」


 もちろん、お城なんだから。でもほんとに異世界ね。このきめ細かい再現性、すごい……。


「えっ。なんだって?」


 ううん。なんでもない。

 とにかく、異世界トリップを信じるかは置いておいて、とりあえずレオニラによるこの壮大な世界での冒険という被験者バイトに付き合ってみない?


「『被験者募集』ってこのことだったのかよ! 室内実験か何かだと思ってたのに」


 あら。「勇者歓迎」って書いてたでしょ。もしかして、見落としてた?


「まさかそのまんまの意味だなんて普通思わねえっつーの! ってか、こんなわけのわからないバイトだとは思わなかったから、早く元の場所に帰してほしいんだけど。俺――」


 日給五万円、払うわよ。


「うっ」


 しかも日払い。


「ぐっ」


 ハヤト、引っ越し費用の支払いで生活が苦しいんでしょう。目の前に垂れ下がっている金をみすみす見逃してまで、この世界から去ってしまってもいいのかしら。


「でも、仕事内容意味不明だし……」


 あら、さっきから言ってるじゃない。魔王を倒せば終わりよ。私がちゃんとナビゲートしてあげるから、成功は確実だし。こんなおいしいバイト、まずないと思うけど。


「でもな……」


 あとこの冒険、何日かかるか分からないけど、かかったらかかったぶんだけ日給が発生するのよ。二日なら十万円。五日なら二十五万円。十日なら――


「レオニラ様。俺は全身全霊をかけて魔王を倒します」


 よろしい。それでこそ私が呼び寄せた勇者ね。


「あれ。でもなんで俺の生活が苦しいってこと、レオニラが知ってるんだ」


 それはそう、私が全知全能の神だからよね。


「………………………なんか、すごく邪悪な真相を感じたんだけど」


 ま、横たわる疑問はおいおい解決していくとして、そろそろ話を進めちゃっていい?


「しかたないな……。全然状況が飲みこめてないんだけど、とりあえず従うことにするよ」


 じゃあ、ハヤトのところに一人のメイドが歩いてくるわ。彼女はうやうやしくハヤトの前で一礼すると、にこやかに廊下の先を示すの。


『王妃の部屋へご案内します。こちらへどうぞ』


「あ、ああ……」


 メイド好きのハヤトはニヤけた顔で胸をときめかせながら、彼女の後ろをついていく。


「その語りやめろ! 俺がメイドフェチみたいになってるだろ!」


 いちいちリアクションしないの。話が進まないでしょ。


「レオニラがよけいなこと言うからだろ……」


 なにか言った?


「……なんでもありません」


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