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第十四話 あわてんぼうのブタ野郎


 三時間後。







「なげえ……いつになったら終わんだよこのライブ」


 ステージ前の村人はずっとノリノリね。みんな歌に合わせて踊りながら女の子にかけ声をあびせているわ。

 でももう終わりみたいよ。女の子が曲を歌い終えると、しめのあいさつに入ったわ。




『じゃあ最後にみんなでいってみよ~♪ 代名詞ゆうたんの格変化はー?』


『ユー・ユア・ユー・ゆうたーん!!』


『みんなありがとー! 明日も来てねー! 来てくれなくちゃやだよー?』


『ゆうたーーーーーーん!!』『ゆうたーーーん!!』『明日もくるよー!』

『ゆうたん今日もサイコーーー!』『また明日ねーーーー!!』




「なにそれ……」


 みんな満足そうな顔でぞろぞろと村の方へ帰っていくわ。


「だれも俺には気づいていないよな。――よし、みんなが帰った後で草むらを出て、魔女のところへ行く」


 ステージの方へ行くのね? 表にはもうだれもいないわ。


「じゃあ裏か」


 裏の方に回ると、ちょうどステージの袖のところでさっきの女の子がみつかる。


「あ、あのー」


『きゃあっ? あ、あの、ライブはもう終わりましたけどー?』


「あ、そうじゃなくて……。俺、ハヤトっていうんだけど、カナンの王妃に頼まれて、これから魔王を倒しに行くんだ」


『魔王? あ、じゃあいわゆる勇者っていうことですかぁ? それは大変ですね~』



「ああ、まあ……。それで、この村の魔女が魔王についてよく知ってるって聞いてきたんだけど、その魔女っていうのは、君のこと?」


「魔女は私のことですよ~。でもあいにく私は魔王のこと、ぜんぜん知らないんですよぉ』


「えっ、そうなの?」


『はい~。たぶんそれって、おばあちゃんのことだと思うんですよぉ』


「おばあちゃん」


『そうなんです。半年前まで魔女をやってたんですけど、最近ちょっとボケてきちゃってー。それで私が魔女を継ぐことになったんですぅ』


「あれ? 君、孫でしょ。継ぐんなら母親が先じゃないの?」


『本当はそうなんですけどぉ。お母さん、おばあちゃんの介護で手いっぱいになっちゃったから、一世代とばしてユウが魔女をやることになったんですよぉ』


「いきなりリアルな話だな……」


 どこの魔女も親の介護には頭を悩ませているということね。


「少なくとも俺の世界ではどこの魔女というほど魔女はいないけどな……」


『それよりぃ。私のことは[ユウ]でいいですよ~? みんなにはそう呼んでもらってますし』


「あ、そうだ。その『みんな』って、村の人たちのことだよな。それって、ユウが魔法で心を操ってるんじゃないのか」


『ぶー。そんなわけないじゃないですかぁ。みんな、自分の意思でこられてるんですよぉ。』


「自分の意思で?」


『はい~。せっかく魔女になったから、なにか村の人のためにできることはないかなぁ、って考えていたら、思いついたのがライブだったんです。ほら、魔女ってあんまりこの村の人と交流もたなかったじゃないですかぁ』


「はぁ……まあ、そういうふうに聞いてるけど」


『だから、魔女をもっとメジャーな感じにしようと思ってー。それで思いついたのがライブなんですよぉ。ほら、私って歌うまいじゃないですか』


「はぁ……まあ、しらないけど」


『だから、村に出てきてみちばたで歌ってみたんですよぉ。そしたら、みんなユウの歌を聴いてくれて、盛り上がっちゃってぇ。でもこのままだと村に迷惑がかかるかなと思ったんですけどぉ、村長さんもノリノリだったからぁ、ユウ、大きなところで歌いたいって言ったら、村長さんがステージをつくってくれたんですよぉ。村長さん、ユウのファンクラブ会員第一号ですから』


「村長も村長だな……」


『で、いまはライブをひらくたびに村のみんながきてくれてぇ。村の仕事も放り出してユウのことを応援してくれるんですぅ。だからもユウもみんなのためにもっとがんばらなきゃって』


「そこが問題になってるんだけど……」


『え、どこがですかぁ?』


「自覚ゼロだな……。まあ村の人たちが自分の意思で来てるんだったらしかたないか……。あ、それよりさっきの話だけど、魔王について知りたいから、ユウのおばあさんに会わせてくれないかな」


『はい、いいですよぉ。でもひとつだけ条件があってぇ』


「条件?」


『はい~。おばあちゃんってずっと昔に、人間にひどい目にあわされたじゃないですかぁ。だから人間に会うのを嫌がってるんですよぉ』


「そうなの? じゃあ俺も会えないってことか」


『そうですねぇ。でも人間じゃなくなれば大丈夫だと思いますよぉ』


「人間じゃなくなればって、どうすんだ」


『例えば、ブタになるとかどうですかぁ?』


「どう、って……そんなこといわれても」


『えいっ、トーキー』


「えっ」


 魔女はトーキーの呪文を唱えた! ハヤトの体はブタになった!


「ブ……ブー!? ブーブーブー!? ブーブーブブーブーブブー!!」


『あはっ☆ かわいいブタちゃんですね~。よしよし』


「ブーブー!! ブーブブーブブーブー!!」


 ヤバい、ほんとにハヤト、ブタになってる……あはは、笑える……。


「ブーブーブー!! ブーブーブブーブーブーブーブブーブブブー!! ブー! ブー!」


 すごく焦ってるハヤト……クスクス……お腹いたい……。


『落ち着いてください~。ブーブーじゃなに言ってるかわかりませんよ~?』


「ブー! ブーブー!! ブーブブーブブーブブーブーブブブーブブー!!」


『とりあえず元に戻しますね~。えいっ、トーキー』


 魔女はトーキーの呪文を唱えた! ハヤトは元の姿に戻った!


「はぁ……はぁ…………」


 どうしたのハヤト。ひどく疲れているようだけど。クスクス。


「笑い事じゃないだろ……死ぬほど焦った……」


 そのわりにはすごく興奮してたようだけど。もしかしてブタの体、けっこう気に入った?


「気に入るわけねえだろ!! むしろ俺の人生で一番恥ずかしかったわ!」


 あらあら。恥ずかしいオスブタだこと。


「はずかしめる言い方やめろ! くそ……この恨み晴らさでおくべきか……!」


 ハヤト。復讐はなにも生まないわ。たとえあなたが復讐を遂げたとしても、生まれるのは新たな恨み。そして続くのは復讐の連鎖だけよ。


「もっともらしいこと言ってごまかすな!」


『じゃあ、どうしますぅ? ブタがイヤだと、他にはトードの魔法でカエルになるくらいしかないですけどぉ』


「それもイヤだ……。でもブタも……」


 わがままな勇者ね。この世界には魔王のせいで苦しんでいる人がたくさんいるのに、ブタになるくらいの勇気もないの? そんなハヤトには勇者より、卑怯で姑息なブタ野郎がお似合いだわ!


「結局ブタ扱いかよ!! ってかこの場面、ブタかカエルになるしか方法ないのか?」


 それは自分で考えてほしいところだけど、まあ答えを言っちゃうとそうね。他にも手がないわけじゃないけど。


「えっ、どんな手だ?」


 魔女を連れてフィールドに出て、モンスターにわざと殺されてから、ゾンビになる魔法をユウにかけてもらって生ける死人としてよみがえる。


「――もうブタでいいです」


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