第十一話 はじめてのたたかい
というわけで、無事に武器と防具を買いそろえて残金もすっかり消費! 身軽になったハヤトは、魔女がいるという隣の村に向けてさっそく町の外に出たのでありました。
「鎧を着てるから身軽とは言えないけど……まあ、思ったよりは軽いかな。帷子だし」
コミケでウケるシュン君のコスプレ帷子ね。
「ってかこれ、レオニラが着させたようなもんだろ」
イヤなら断ればよかったのに。まあ、あそこの店で手に入る中で、魔王に対抗できる防具はこれくらいしかないけど。
「結局一択だったのかよ! くそ、レオニラの思い通りにことが進んでいるのがくやしい……」
被験者バイト。日当五万円。
「いえ、なんでもありません。順調にことが進んでうれしい限りです」
よしよし。物分かりのいい子ね。
「いまの自分が情けない……」
さて、町の外へ出たハヤト。村までの道にはモンスターがうろついているわ。いよいよ敵との遭遇ね。
「初めての戦闘シーンか。ちょっと緊張するな……。あ、そういえばさっき、戦闘はターン制だって言ってたけど、攻撃は自分で斬りかかるのか? 俺、剣なんか使ったことないんだけど」
その辺は大丈夫。戦闘シーンはプレイヤーが行動の選択をすれば、あとは自動で動いてくれるの。
「自動で動いて……って、どういうことだ? こっちはただ待っていればいいのか?
さすがに現代人のハヤトに剣を持たせて「はい、自由に戦って下さい」は無理があるでしょ。だから戦闘のときだけは、周りの時間の進み方がRPGゲームみたいなターン制になるの。
戦闘シーンに入ったら、ハヤトはどう戦うかだけを選べば、右手のリストバンドがシステムとリンクしてハヤトの体を自動的にコントロールしてくれるのよ。【戦闘技能】がわざわざ設定されているのもそのせい。
ま、腕力5000なんていうチートがハヤトにはあるから、心配しなくても大丈夫よ。これ、あくまでテストだし。
「ほんとかよ……」
戦ってみればわかるわ。ほら、さっそく出てきた。
「お、敵か?」
緊張の初バトル! 相手は――
「――なんかすごく巨大なんだけど」
全長二十メートルはあろうかという、宙を舞う赤い巨体の怪物「レッドドラゴン」が現れた!
「いきなりドラゴン!? ちょっとまて、初めての戦闘でハードル高すぎだろ!」
あら、スライムやゴブリンごときが出てくるとでも思った? 私はそんなに甘いGMではないわ。勇者をきたえ上げるためには一片の容赦もしないから。
「なにもっともらしく言ってんだよ! ってかこれテストじゃなかったのかよ!? うわ、こっちにらみつけてる! ヤバいって!!」
とりみださないの。さあ、ハヤトの先制よ。どうするの。攻撃する? それともお話でもする?
「会話の選択肢!? じ、じゃあドラゴンと話を――」
ひよってんじゃないわよ。攻撃以外ありえないでしょ。はい、攻撃する。
「勝手に決めんな! 話ができるんなら平和的に済ませたいんだけど」
あ、ごめん。ドラゴン語がしゃべれないとダメだった。
「なんだよドラゴン語って!」
おはようのあいさつはお互いに口から火を噴きあう感じ?
「疑問形かよ! ただの思いつきだろ絶対!」
で、どうするの。バスタード・ソードだと「ふり回す」と「突く」が選べるけど、どっちにする?
ちなみに「ふり回す」は命中率が高いかわりに威力も普通。「突く」は命中率が下がるけど、威力は1.5倍になるわ。
「う~ん……。最初だし、とりあえず『ふり回す』かな」
『ふり回す』ね。じゃあ、ハヤトはバスタード・ソードをふり回した!
「うおっ、体が勝手に動く!? あ、頭に当たった!」
レッドドラゴンに3のダメージ!
「うわ、そんだけ? やっぱりすげえ強い――」
レッドドラゴンを倒した!
「――はい?」
レッドドラゴンを倒した!
「いや、二回言わなくても。ってか、レッドドラゴン弱すぎじゃね?」
なにを言っているの。レッドドラゴン相手に3ダメージも与えられるなんて、たいしたものよ。さすがに腕力5000はだてじゃないわね。
「じゃあ、普通のやつなら何ダメージくらい与えられるんだよ」
0.001ダメージくらい。強者でも0.015から0.075くらいね。
「小数点やめろ! わかりにくいからもう三ケタくらい設定上げろよ!」
あら。ハヤトは算数ができない子だったかしら。小数点第三位くらいで泣きごと言ってんじゃないわよ。
「イメージの話だ! 小数点使うとか、みみっちい戦いに見えるだろうが!」
じゃあハヤトには、コンマ1秒を争う100m走の選手のし烈な戦いもみみっちく見えるわけね。
「そこまでは言ってねえ! ってか普通のゲームでこんなケタ数の戦闘ないだろ!」
わがままな勇者ね。じゃあ次までには設定を変えておくわ。――念のために聞いておくけど、√やΣは使用可よね。
「不可に決まってるだろ! よけいややこしくなるわ!!」
なにそれ。じゃあ小学生でも分かる数字しか使えないじゃない。つまらないの。
「レオニラはこのゲームのどこに楽しみを求めているんでしょうかねえ!」
――あ、次の敵よ。さあ、戦闘シーン!
「流された……。で、今度はどんな敵だ?」
人間の子どもが現れた!
「……は?」
まだ幼い、八歳くらいの小さな男の子が現れた!




