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第十話 二次元キャラのリアル化に成功

 というわけでバスタード・ソードを手に入れた雄斗は、次にそのとなりにある防具屋へ来たのでした。


「防具もいろいろあるんだよな。鎧とか、盾とか、兜とか。やっぱりひと通りそろえなきゃいけないのか」


 本来はそうなんだけど、兜とかつけちゃうとビジュアルが変わっちゃうし、今回の冒険は鎧だけで十分な防御力が確保できるように設定してあるわ。


「盾もいらないのか? じゃああんまり片手剣の意味ないよな」


 それは私へのあてつけかしら。


「そういうわけじゃねえけど――まあ、実際そうなんだけど」


 あ、そう。……ナビゲートやめようかな。


「なにすねてんだよ。――で、防具屋ではとりあえず鎧だけ探せばいいんだな」


 そ。奥にいるあの子が店員よ。勝手に訊いて適当に選べば?


「だからすねんなって……。ってかあれ、あの子が店員? ずいぶん若いな」


 防具屋の店主の娘ね。名前はミーシャ。十七歳。前髪ぱっつんの長い黒髪に紫色の大きな瞳。色白で丸みのあるかわいい顔立ちよ。ハヤトの好みのタイプでしょ。


「いや、べつにタイプじゃねえけど」


 えー。じゃあどんな子がタイプなの。


「俺はどっちかっつーとふわふわのミドルヘアでかわいめの――ってなに言わせんだよ!」


 ほほう、なるほど。じゃあ次の設定更新のときはその辺も考慮に入れてキャラ作成しておくわ。

 で、防具選びね。ハヤトのそばまであの娘が来てるわよ。


『いらっしゃいませ~。防具をお探しですか?』


「あ、ああ。魔王と戦える鎧を探してるんだけど。五億ベリーくらいで」


『魔王!? 魔王と戦うんですか? 一人で? 本当ですか? すごいじゃないですかー!?』


「はぁ、まぁ……」


『それじゃあ並大抵の鎧じゃダメですね! ちょっと待ってて下さい。魔王と戦うのに最適なものを……ええと、お名前は?』


「ハヤト、だけど」


『勇者ハヤト様! 少しお待ちくださいね! すぐに見つくろってきます!!』


 言うが早いか、店員の女の子は目にもとまらぬスピードで店の鎧コーナーをあさると、二着の鎧をたずさえて再びハヤトの前に戻ってきた。彼女はまず右手の鎧を差し出す。


『お待たせしましたハヤト様! えーと、これなんですけど、どうですか?』


「これは……鉄の帷子かたびら?」


『そうです。でもただの鉄じゃなくて、守護魔法を帯びた貴重な魔鉄金属でできた帷子なんです。だから剣や爪とかの打撃はもちろん、攻撃魔法にも抵抗力があって、魔法を多用すると言われている魔王戦にはすごくおススメなんです』


「へえ……そうなのか」


『帷子ですから鎧に比べて軽いですし、突き攻撃に弱いこと以外は、抜群の防御力を備えているんです』


「じゃあ、これで――」


『でも、これはダメです』


「えっ……?」


『ハヤト様には、これよりこっちです』


 すると彼女は、今度は左手に持った帷子を差し出した。


「これは……形は同じだけど、色がだいぶ違う、よな」


『そうです! この肩から胸の下にかけて紅から黒へグラデーションのかかった魔法の帷子が、私のおススメです!』


「さっきのやつと防御力が違うのか?」


『いいえ。性能は全く同じです。でもこっちのデザインの方が、絶対カッコいいと思うんですよー!』


「デザインの問題かよ……」


『あー、バカにしましたね? この帷子、シュン君の着ている鎧をイメージしてつくられたんですけど、完成度ヤバくないですか? もう私、これが入荷してきたとき感動しちゃって――』


「シュン君?」


『え、知らないんですか? シュンター=D=ミストレルですよ! マンガ[ミストレル王国の栄光]に出てくるイケメン主人公、シュンターことシュン君です!』


「知らん……。ってかこの世界、マンガあんの?」


『当然じゃないですか! 私、もうマンガがなかったら生きていけませんから! 今度のコミケだって絶対参加する予定ですし――あ、ぜひ一度着てみてください! さあさあ!」


「はぁ。――これでいいか」


『キャー!! ちょっとこれ似合いすぎなんですけどー! 二次元キャラのリアル化きましたあああ!! これぜったいコミケでウケますよー!!』


「ええと……その『コミケ』って、もしかしてコミックマーケットのこと?」


『当たり前じゃないですかー! ほかになにがあるんですかー?』


「いや、まさかこの世界にもそんなのがあるとは思わなかったんだけど……。ってか、俺は魔王と戦えればそれでいいし」


『勇者様がそんなこだわりのないことじゃだめです! 防具は戦士としてのアイデンティティつまり自己同一性の表れなんですよ! いままでこれを着なかったのは罪ですよ罪! 私が裁判官なら確実に死刑です!!』


「はぁ……」


『もしハヤト様がこの鎧を着ていったらコミケでウケることまちがいなしですよー! 魔王戦にはこの魔法の帷子を着ていってくださいね! ぜったいですよ! ぜったい! はい決まり!』


「はぁ……」


 というわけで、ハヤトは魔法の加護が付与された帷子を押しつけられ――手に入れたのであった。


「言い直すあたり確信犯だろ! ってかこいつのキャラも普通の防具屋じゃないだろ……」


 深夜アニメの腐女子キャラを見ながらゲームを創っていたから、かしら。


「レオニラの創ったキャラは全部テレビ由来かよ!」


 仕方ないじゃない。ゲーム創るのって案外、長時間の単純作業が多いから、気を紛らわせるものが必要なのよね。


「はぁぁ……。で、これ、いくらすんの?」


『本当は三十億ベリーなんですけど、ハヤト様に着ていただけるなら五億ベリーで結構です!!』


「それすっごい気が引けるわ……」


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