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第九話 本日ご紹介する片手剣はこちら

 じゃあ、次は装備ね。武器と防具を買いそろえに、さっそく町へ繰り出すわよ。


「その前にこの大量の金貨、なんとかならないのか。めちゃ重い――」


 あら。いま腕力5000にしたから、楽々持ち上げられるはずよ。


「――あ、ほんとだ。すげー軽くなってる。いや、それにしたってこの布袋、デカくて邪魔なんだけど」


 これから行く武器屋と防具屋で全部使っちゃえばいいから。それまで我慢しなさい。


「しかたねえな……。で、まずどっちに向かうんだ?」


 近いから武器屋にしましょうか。すぐ先にあるわ。


「それにしても、この通りを歩く人も全部レオニラが創ったんだよな。みんな顔も服装も違うし、これ全部創るの、大変だったんじゃないか?」


 P.T.I.S.にあらかじめ組み込まれているテンプレートを利用しているの。町の面積と人口密度、人種と年齢構成を設定すれば、町を歩く大量の人間を自動的に作成してくれる。ちかごろの映画ではよく使われている手法よ。

 ここは城下町で人が多いから、本当に一人一人の設定を入力してたらいくら時間があっても足りないし。ま、本当にそんなことする必要があるなら、面倒だから町にだれも歩かせないようにするけどね。


「それはそれで寂しいな……。お、あれか」


 石畳の通りを進むと、その先に剣の形をした焼印が押された木製の看板がみえるわ。

 そのすぐ下にある扉を開けると、中には剣や斧、弓など各種の武器が壁やテーブルの上にところせましと並べられている光景があった。


「でも俺、片手剣しか使えねえんだよな。いくつ種類があるんだ?」


 たくさんあるわよ。片手剣は右奥の広間ね。


「あっちか。――えっ。これ、全部か?」


 ショートソード、ロングソードはもちろん、ブロードソード、カッツバルゲル、ワルーンソード、バスタード・ソード、フォールション、レイピア、フルーレ、グラディウス、サーベル、カトラス、黒曜石の剣などなど。変わったのだとハルパーやマカエラ、シャムシール、タルワーとか。魔力を備えたマジックソードも何種類かあるわ。


「片手剣だけだと思ってなめてたわ……。でもこれだけあると、逆になにを選んだらいいのか分からないな」


 それについては、店主に訊けばいいわ。あのカウンターの奥にいるにこやかな顔をした中年の男性よ。


「なんかにこやかっていうか、すごい営業スマイルでこっち見てるし……。あ、あの、すみません。片手剣を探してるんですけど」


『いらっしゃいませ! 家庭用から業務用、スライム戦用から魔王戦用まで、あらゆる武器がお値打ち価格で何でもそろう小国カナン一の武器屋ロビンにお越しくださいまして、誠にありがとうございます! 私が店長のロビン・ロッシ、人呼んで[最終兵器ロビン]でございます!』


「はぁ……。あの、それで片手剣なんですけど」


『片手剣をお探しですか? ご予算はいかほどでしょうか』


「えーと……。このゲームはふつう、武器にどのくらい金かければいいんだ?」


 全財産が十億ベリーだから、半分の五億ベリーくらいで探せばいいんじゃないかしら。


「じゃあ五億ベリーまでで、魔王と戦える武器を――」


『対魔王様用ですね! 分かりました、この最終兵器ロビンにお任せ下さい。ちょうどおすすめの品が入ったばかりですので、順番に紹介していきたいと思います。

 まずはこれ! 見た目は普通のバスタード・ソードですが、切れ味が非常に優れているんですね。ここにちょうどワラの束がありますが、これを敵に見立ててください。いきますよ。――ほらこの通りきれいに真っ二つ! まだまだいきますよ。二つ、三つ、四つと斬っていってもまったく切れ味が衰えない! この剣なら町の周りの気になるゴブリンもサッとひと振りで片付けることが可能でしょう!』


「はぁ……」


『なぜこんな切れ味が実現できたかというと、シュテルン公国で三十年以上鍛冶屋を営むあの有名な鍛冶職人イオラ=マックスさんが直々に腕をふるい、丹精込めてつくったものだからなんですね。普通ならシュテルン公国のごく一部の上級騎士にしか卸さないこの武器を、私、最終兵器ロビンが決死の思いで開拓した独自のルートで小国カナンに仕入れることができた、大変貴重なバスタード・ソードなのです!』


「はぁ……」


『このバスタード・ソードを今回、お値打ち価格、なんと四億八千二百十六万五千ベリーで提供いたします! もうこれは赤字覚悟! 出血ドバドバ大サービスの衝撃プライス! でも魔王を倒してくれるなら望むところです! いかがでしょうか?』


「はぁ……まぁ……」


『まだ踏み切れませんか? でもご安心ください。まだありますよ。続いてはこちらの商品です!

 こちらの剣、見覚えあるでしょうか。グリーンドラゴンの鱗が柄の部分にあしらわれた特別な剣。そうです。ドラゴンスレイヤーです! ドラゴンといえば、魔王の配下の中でも圧倒的な破壊力をもった巨大モンスター。その強大な怪物を討ち倒すために開発された高価な剣であることは、当然ご存知のことと思います!』


「はぁ……」


『このドラゴンスレイヤー、特殊な加工技術を使用しているため、生産量が非常に少なく当店でもなかなかご提供できなかったのですが、つい二日前、ようやく隣国プラム&プリムから三本限定で緊急入荷致しました!

 これを使えばレッドドラゴン、グリーンドラゴン、イエロードラゴンといったガンコなドラゴンたちはもちろん、スカルドラゴンやゾンビドラゴンといったしつこいアンデット系のドラゴンも簡単に倒せます! もちろんドラゴンだけではなく、その他一般の怪物もきれいに一掃! 絶大な効果を発揮します。ぜひ旅のお供に一本、備えて頂きたいと思います!』


「はぁ……」


『でもドラゴンスレイヤーって高いんじゃないの? そういう声をよくお聞きします。たしかにこの剣、通常ならば七億から八億ベリーが相場です。が! 今回は魔王討伐キャンペーンということで、特別に三割引き! 税込み五億ベリーでご提供させて頂きます! いかがでしょうか?』


「はぁ……まぁ……」


『まだ踏み切れませんか? でもご安心ください。まだありますよ。続いてはこちらの商品です!

 このサーベル。これまでの二品に比べるといささか頼りない見た目ではありますが、なんと! こちらの商品、驚くべき速さで野菜をカットすることができるんです! 実際にやってみましょう! こちらに用意したトマトを、はい二分の一カット、四分の一カットと斬ってみると――見てください、このうつくしい切り口! きれいにスパッと斬れてますよね? このトマト、まだ自分が斬られたことに気づいてません。恐ろしいまでの切れ味でしょう。次にキャベツを――』


「……あの、すみません」


『はい、ご質問でしょうか。どうぞ!』


「もう、いいです」


『は、はい?』


「お腹いっぱいです。あの最初のバスタードとかいうやつでいいです」


『は、はぁ、そうですか。でもせっかくなので残りの剣も』


「あといくつあるんですか」


『十三本ほど』


「もういいです。もうたくさんです」


 本当にいいの? まだまだお値打ちの剣がたくさんあるわよ。


「いや、なんで武器屋が深夜の通販番組みたいになってんだよ! もっと落ち着いて選ばせてくれ!」


 どれにしたらいいか分からないって言ったのはハヤトでしょ。だから最終兵器ロビンが懇切丁寧に一本一本解説してくれているのに。


「極端なんだよ! 有名な鍛冶職人がつくったとかなかなか入荷しないとか出血大サービスとかどうでもいいわ! てかなんでただの武器屋の店主がこんなキャラになってんの?」


 深夜の通販番組を見ながらゲームを創っていたから、かしら。


「テレビの空気をそのままゲームに持ち込むな!」


 わがままな勇者ね。そんな細かいことを気にしてたら、これからの冒険、やっていけないわよ。


「これからこんなやつらばっかりなのかよ……」


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