祓えない魂
最初の契約者から始まって一年間のうちに失踪や自殺に恐怖で反狂蘭になり精神病院へ入院する者まで出たので不動産会社の営業マンから前島雄平に連絡が入った。
このままでは住人が居着かないので早急にお祓いだけでもしないかと言う相談だった。
雄平は気が進まなかったがこれも投資のためなので見せかけだけでもと思い金だけ渡して営業マンの野口高雄に任せることにした。
任された高雄はすぐに最寄りの神社へ出向き事情を話して1111号室のお祓いを依頼して会社へ戻った。
「幽霊マンションのお祓いをすぐそこの神社にお願いしてきました。明日の朝に来てくれるそうです。」
「野口さんお疲れさま~~!さすがにこの一年で自殺者が4人でしょ?失踪者が5人に発狂した人が6人ですよ!あの部屋にはやっぱり殺された少女の怨霊がいるんですよ~~!野口さんも祟られないように気を付けて下さいよ~」
高雄が上司の山崎に報告している横で事務の浦本ユイが興味本位で茶々を入れるので手に持っていた資料でユイの頭を軽く叩いてから高雄は帰り支度をして会社を出た。
正直に言うと高雄はあまりあのマンションのあの部屋へは行きたくなかった。
行く度に少女の笑い声が聞こえたり何か金属が小擦れ合うような気味の悪い音が聞こえるからだ。
家に帰ると妻の翔子が先に帰って夕食を作って高雄を待っていてくれた。
「今日は俺の当番だったろ?良いのか?」
「だって高雄・・・ずっと何か考え込んでて心配だったから・・・今日は特別!」
翔子の笑顔に絆されて高雄はありがとうと素直に喜んで食卓についた。
「明日・・・あの部屋のお祓いに立ち会うんだ・・・」
「1111号室?お祓いする事を大家さんがやっと承諾してくれたんだ!良かったね」
高雄の話を聞いて翔子は鞄の中から何かを出して高雄に渡した。
「お守りなの!ちょっと人型で気味が悪いかもなんだけど身代わりになってくれるんだって!」
「どうしたんだよこんなの・・・マジで気味悪いけど(笑)明日は必ず持って行くよ・・・ありがとう」
手渡されたお守りを高雄はスーツの内ポケットへ入れて翔子を後ろからギュッと抱きしめていた。
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翌朝の9時には高雄は出社して神主とお手伝いの巫女さんを社用車へ乗せてマンションへ向かった。
相変わらずマンションの中は薄暗く不気味さを漂わせている。
「この土地では昔、色々あったそうで怨霊たちが今でも根深く彷徨っていると聞いております。」
「色々ですか?そんなに根深いものなのですか?」
神主は頷いてマンションの裏にあるお墓のほうを指差して
「あの墓地にはこの辺り一帯の土地を無理矢理奪われた大地主の魂が眠っているのです。」
「無理やりですか?ということは昭和の始め位の話ですか?」
うんうんと神主は深く頷いて手を合わせていた。
三人は1111号室へ入り少女が殺されていたという寝室へ入り神主はお祓いの支度をお手伝いの巫女さんにさせて部屋の中を少し見て廻ってからお祓いを始めた。
【ギィィィーーーーーーーーーーーー!!ギィィィーーーーーーー!!】
神主がお祓いを始めてすぐにその不気味な音は部屋中に響き渡っていた。
【ギィィィーーーーーーーーーーーーー!!ギィィィーーーーーー!!】
『フフフフフ・・・・・フフフフフ♪』
高雄には少女が不気味に笑う声もすぐ横で聞こえていた。
【ギィィィーーーーーーーーーーー!!ギィィィーーーーーーーー!!】
響き渡る不気味な音を耳にして震える身体を抑えようと胸ポケットに入れている
翔子から貰ったお守りを高雄は目を閉じてギュッと強く握りしめていた。
すると神主が急に苦しそうに喉元を両手で抑えながらもがき苦しみ出した。
「グワァァァァァァァーーー!!グェェェェーーーーー!!」
「キャァァァァァーーーーーーーーーーーーーー!!」
巫女さんがその姿を見て怯えて叫び声を上げて部屋を飛び出した。
高雄はすぐに救急車を呼んで神主を近くの救急病院へ搬送してもらった。
一時間ほど処置と検査を神主は受けて医者からは極度の緊張状態が続いててんかんの発作を起こしたのだろうと高雄と巫女さんは説明を受けていた。
ところが翌日になって巫女さんから神主さんが病院で今朝早くに急死したと連絡が入った。
高雄は慌てて病院へ行き担当の医者に事情を聞いたが医者も首を何度もひねって原因がよくわからないと頭を抱えていた。
車に戻った高雄は翔子から貰った胸ポケットのお守りのことを思い出して胸元に手を入れて取り出してみると人形の形をしたそのお守りはズタズタに何かに引き裂かれたような状態になっていた。
そしてその二日後には巫女さんも神隠しにでもあったかのように自宅から煙のように消えてしまった。
恐ろしくなった高雄は上司に事情を話して辞表を提出したが1111号室の担当から外すからと強く止められて仕方なくだったがその時は会社を辞める事を思い留まった。
そしてその後も1111号室へ入居した住人は自殺するか失踪するか不慮の事故に会うか気が狂って精神病院へ送られるという具合に無事だったのは最初の新婚夫婦だけであとは無事に済んだ者は誰一人としていなかった。
そんな事ばかりが続いた事で高雄はやはり耐え切れなくなってその一年後には退職して翔子の生まれ育った田舎へ引っ越して今では平穏に暮らしている。




