恐怖の始まり
咲良が惨殺されてから2ヶ月が過ぎようとしていた。
母親の高井京子は咲良の惨たらしい遺体を目の当たりにしてあの日から気が触れてしまい精神病院へ入院してしまった。
父親の渉は咲良が死んだ後、ガラガラと音を立てて崩れてしまうかのように会社の業績が落ち込んで自暴自棄になり酒浸りになって寝室の咲良の絵画を泣きながら座り込んでただ眺めていた。
「咲良・・・・・・咲良・・・・・・うううう・・・」
渉が床に転がり泣き疲れてウトウトしているとどこからか金属が擦れるような嫌な音が部屋の中を響き渡っていた。
【キィィィーーーーーーーーーーー!!ギィィィーーーーーーーーー】
その不気味な音に恐怖を感じて渉は慌てて起き上がった。
「何だ?何の音だ?どこから聞こえているんだ?!」
【ギィィィーーーーーーーーーーー!!ギィィィーーーーーーーーーー!!】
激しさを増す不気味な音に耐えかねて渉は部屋を飛び出して玄関から外へ出た。
そのままエレベーターで一階まで降りると白い顎鬚を生やした老人が杖を付いて立っていた。
「おや?どうされました?顔が真っ青ですよ?」
「あ、いや~ちょっと飲み過ぎてしまったようで・・・へへへ」
老人に尋ねられて渉は頭を掻きながら苦笑いで事の次第を話すと
「フフフフ・・・それはまた恐ろしいですな・・・貴方?怨霊に祟られてますな?」
「えっ?!祟られてる?・・・・まさか・・・ハハハ・・・」
渉が老人の言葉に動揺していると老人は手招きをして渉をマンションの外へ連れ出した。
「何処へ行くのですか?あの・・・」
「良いから黙ってついてきなさい」
そして老人に連れて来られたのはマンションの裏にある不気味な墓場だっ
た。
渉が立ち尽くして墓の周りを見渡していると奥の方に何か真っ黒な渦のような煙の塊のようなものが動いて見えた。
「あ、あれは何ですか?あの黒いあれは・・・・」
渉は振り返って老人を探したがさっきまで居たはずの老人の姿はそこには無かった。
「えっ?!あれ?嘘だろ・・・ちょっと!!おーい!!お爺さーーーーん!!おーーーーい!」
スッカリ酔いの冷めていた渉は恐ろしくて大声を上げていた。
渉が声を上げた瞬間に墓場の奥でふわふわと渦巻いていた真っ黒な物があっという間に渉を飲み込むように覆いかぶさっていた。
「た、助けてくれーーーーーー!グワァァァァァァァーーーーーーー!!」
真っ黒な渦を巻いた不気味な物は渉を飲み込むとまた墓の奥へ戻って消えてしまった。
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そして渉が失踪してから2ヶ月が過ぎていた。
「持ち主が未だに行方不明なのですが、身内の方が売却の方は勧めて頂きたいと仰っておりますのでこの金額で契約の方を勧めさせて頂きます。」
「はい!宜しくお願いします。こんなに安くでこのマンションの最上階を手に入れられるなんてすごく有難いです。」
1111号室を渉は失踪する前から不動産屋に依頼して売却手続きを行っていたようで渉が失踪してすぐに買い手は現れた。
「新築時の半額ですからお買い得でしたよ!確かに嫌な事件はございましたが・・・投資目的なら十分利益を上げてくれる物件でございますから」
「そうですね!これだけ安くで購入出来たので相場の8割で賃貸にすればすぐに借り手は現れそうですしね。クククク」
不動産屋と取り引きを交わした前島雄平は三十半ばにして学生時代からやっている株で儲けた大金でこの破格の値段のいわく付きのマンションを投資目的で一括購入することにした。
雄平は全く幽霊や怨霊など目に見えない物は信じていなかったので少女が惨殺されたマンションだとしても雄平にとってはただの投資の道具でしかなかった。
購入してからすぐに雄平は残された荷物を業者に粗方処分させて壁紙や床を綺麗にリフォームしていた。
雄平は寝室にある少女の絵画だけは何故かどうしても処分する気持ちになれずそのまま寝室に飾っておくことに決めた。
『フフフフフ・・・・フフフフフ♪』
日も落ちてそろそろ帰ろうかと立ち上がった時に電気の点いていない寝室の中で気のせいか絵の中の少女が笑ったような気がして雄平は少しドキっとしていたがすぐに臆病な自分を心の中で笑って玄関を出た。
そうしてリフォームも無事に終わり雄平は1111号室の大家となって家賃は予定通り相場の8割で入居者を募集すると一週間後には雄平の思惑通り入居者はすぐに決まってしまった。




