ナルシスト
家についた俺はすぐさま洗面所に向かった。そして鏡を見て髪を確認する。修正箇所はいくらでもあった。
まずは整髪剤をつけ、髪に塗り艶を出す。髪は光に反射してところどころ光って見えた。
・・・いや、だめだ
これでは髪が固まって不自然だ。ナチュラルで違和感のないのが理想的だ。
・・・なんでだろう
ちょっといざこざがあったせいか髪の調子がいつもより悪く感じた.....
食堂で粗末な夕食を食べ終えた俺は再び仕事に戻ろうとロビーを歩いていた。
しかし、どうも髪型が気になる。ふと、右をみると、丁度ガラス窓があった。このガラス窓は幅が広く、美しい都会の風景を見物することができる。鏡までとはいかないがガラスなら髪型を整えるくらいなら十分だ。
手で髪をソッと撫で、そのまま目のほうまでおろす。
少しはマシになった。
ところがその髪型を直す様子を嘲笑するやつがいた。
Aだ。Aは俺の姿をみるなり
「大切なのは中身だよ。そんな髪型よりも、もっと内面的に磨いたらどうかね?」
よりによって俺の髪型をバカにされた。
その時、俺の心の中で何かが燃えた。いがみあいにまで発展したものの、俺は冷静さを取り戻しAを後にした。
数分かけてやっと髪を整え終えた。
うん、自分で言うのもなんだが完璧だ。
これで証拠となる額の傷は髪で見えないだろう。
Aといがみあいになった時、俺ははずみでAを押してしまった。
Aはバランスを崩し、ガラスを突き破りそのまま美しい都会の風景に吸い込まれて行った。
俺は冷静さを取り戻した。
額の傷はそのときできたものだ。
幸い周囲に人はいなかったもののこの傷は消すことなどできない。
この傷はなんとしてでも隠さなければならなかった。
ナチュラルで違和感のない髪はまさに俺の理想的だ。