これは夢か現か
見回すとそこは、半分以上森に囲まれた開けた場所だった。。遠目には、小さく村のようなものが見える。
(あれ…?ここは…?)
なんだか頭がすっきりしない。その時、
「おーい、何してんだよ!もう始まってんだぞ!」
後ろから呼ばれ振り返ると、小学生ほどの子供たちが数人、サッカーをしていた。
(ああ、思い出した…皆と遊んでたんだ)
そこまで思い出したところで、俺はあいつ、双子の弟のもとへと走る。
「どうしたんだ?」
不思議そうに聞いてくる弟に対して、なんでもねえよ、と笑って返す。
「そうか。ならいいや。行こうぜ」
おう!、と返してハイタッチ。よし、いつも通りだ。走り出しながらそう思う。
中心に一人おいて、回りの奴らがとられないようにパス回し。人数が足りない時によくやる遊びだ。
一人がパスをミスして交代、それが何度も続けられる。
皆が皆、笑っている。ボールを追いかけ、ボールを回して、ボールをとってとられて。
皆笑っている。俺も弟も友達も、皆が笑っている。
「あっ!!」
一人がパスを大きく飛ばしすぎて、森の中へ入ってしまった。
「なにやってんだよー」「さっさと取って来ーい」「ごめーん」
子供たちが笑いながら文句を言い、ミスしたほうも笑いながら森へと入っていく。
「よっしゃ、戻ってくるまで休憩しようぜ」
誰かがそう言って、皆が思い思いに休憩し始める。
「しかし、あちーなあ。もう夏だもんな」
俺は弟とてきとうに話しながら、友達が戻ってくるのを待つ。
しかし、いくら待っても戻ってこない。
「もしかして、結構奥まで飛んだのか?」
探しに行こうぜ、と誰かが言ったので全員で森の中へ―――
(あれ?なんか…嫌な予感が…)
立ち止まり周囲を見回す。前には友達と森の木々、左右は広場、後ろには―
「おい、さっさと行けよ」
俺を急かしてくる弟。悪い、と言って笑いながら再び歩き出す。どうせ杞憂だろうと思いながら…
「おーい!どこに行ったんだー!おーいってばーっ!!」
皆、「おーいおーい」、と叫びながら慎重に奥に進んでいく。
「…ん?…おーい、ボール見つけたぞ-!」
先頭を進んでいた奴が声を上げて、ボールを掲げて見せた。
「よっしゃー戻ろうぜ」「あれ?じゃああいつは?」「戻ってもう一回今度はその辺探そうぜ」
大多数が戻るという意見を出したので、一度戻ることにした。
「あいつ、ホントにどこ行ったんだ?」「さあ?そのうち出てくるんじゃねえの?」
一番後ろに居たのは俺たちなので、必然今度は俺たちが先頭を歩くことになる。後ろからは探しに行った奴を心配(?)する声が聞こえてくる。そう思ってる俺も後者の意見に賛成だけども。
そんなこんなで森を抜ける。ふぅー、と自然と息を深く吐いてしまった…思っていた以上に緊張していたらしい。
「これからどうする?」
最後に出てきたやつがそう言った。
「あいつ捜さないとなあ」「さすがに遅すぎるし…」
やっと本気で心配するやつが出てきた。さっきの嫌な予感も、気づいたらまだ収まってないし…
「ボールそこら辺に置いて捜しに行こうぜ」
というわけで、二手に分かれた。一つはボールがあった場所の周囲を捜す班、もう一つは森に入ってすぐの場所を広範囲で捜す班。
俺と弟は後者に入った。
俺があまり森に入りたく無かったし、基本的に俺と行動を共にしてる弟も、俺に付いて来るだろうことは予想通りだったので、少し安心した。
これで、何かあってもすぐに逃げられる、と思って。
捜索を開始して、二十分以上が過ぎた。
まだ奥に行った班は戻ってこない。俺たちの班も全然手がかりは見つけられなかった。
「なあどうする?あいつらと合流するか?」
だんだん焦りが見え始めた俺たち。誰かが言ったその提案にすぐに頷いて、森の奥へと入っていく。
「お、おーい…見つかったかー…?」
誰かがそう叫ぶが、その声は小さくなっていた。周りにいる奴らも皆疲弊しているようで、さっきから一言も喋らない。
(暑い中をこれだけ捜し回ったんだから当然か…もうどれくらい経ったのかわからねえもんな…)
そこまで考えてふと気づいた。
(あれ…?俺今疲れてるか?)
体の調子を確認してみる…うん、どこも疲れてない。むしろ調子が良いくらいだ。あれ、でも俺も皆と同じ時間遊んで捜したのに、何でだ?
首をひねって考えていると、
「なあ」
弟に呼ばれたので振り向く。弟は難しい表情のままで、
「さっきから、どうも体の調子がおかしいんだけど…」
「お前トイレいきたいんじゃねーの?」「あ、俺も行きたい!」「じゃあ全員で連れしょんしようぜ!」
先程まで黙っていたやつらが、食いついてきた、どうやら聞き耳を立てていたらしい。
「いや、ちげーよ!お前らと一緒にすんな!俺は行かないからな!!」
「ノリワリーぞ!」「お前はどうする?」
いきなり俺に振られても。苦笑しながら、俺もやめとく、といって首を振った。
ぶつぶつ言いながら、茂みの中に消えていく友達を見送って、木にもたれかかる。
そして、体の調子でも悪いのか?、と弟に聞いた。
「いや、全然悪くないっていうか、むしろ絶好調?」
と疑問符付きで言ってきた。じゃあ何がおかしいんだ?、もう一度問いかけると、
「だから、絶好調すぎておかしいんだって。普通疲れるだろ?こんなことしてたら」
その言葉を聞いて衝撃を受ける。まさに今の俺と同じだからだ。そして考え込む。自分たちの身に、一体何が起こっているのか。
しかし、それはすぐに考えることを中断させられた。
茂みから、二つの物体が絡まりながら飛び出してきたからだ。
その物体は俺たちの脇を通り抜け、さらに奥にあった木にぶつかって、ようやく止まった。
物体は、よく見ると赤黒く塗られていて、布の様な物がところどころにくっ付いている。………というか、あれ?この赤く塗れた布切れって…
さっき茂みに入った奴らの服に似てなかったか…?
そこまで考えて、ゆっくりと物体が飛んできた方向へと視線を移す。見てはいけない。頭の中でその警鐘が大音量で鳴り響いているのに、視線を移すのを止められない。
やがて、視線がある一点で止まる。そこには、
真っ赤な目をして、真っ黒な体躯で、頭の方から赤い液体を垂らした――化け物が居た。
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「…っ!」
自室のベッドで、少年は飛び起きた。
少し汗をかいている少年は、胸に手をあて、浅く呼吸を繰り返していたが、一度深呼吸をするとすぐにいつもの無愛想な表情へ戻る。
「ふぅー…顔でも洗うか…」
衣装ケースよりタオルを取り出して洗面所へ。
(こんな顔では人前に出られねえな…全く…)
そんなことを思いながら欠伸をする。
既に目元に溜まっていた液体は、許容量を超えたのか、そのまま頬へ流れ落ちていった。