プロローグ
~東京 渋谷~
「やばいやばい!遅刻だ!」
いきなりベタな展開だ。
俺の名前は八子 健太郎。
どこにでもいる、普通の中学二年生だ。
「もー!八子ったら!悠長に朝ごはん食べてるからこんなことに!」
「これのどこが悠長な朝ごはんなんだ!?昭和の漫画じゃあるまいし!」
俺は朝ごはんの食パンを片手に走っていた。黒髪のポニーテールのメガネ女が文句をいいながら並走していた。
こいつは谷原 由井。幼馴染みだ。家も近いから、毎日一緒に学校に通っている。
何故、遅刻しそうになっても、待っているんだろう。遅刻しそうな俺もだが、案外こいつも抜けたとこがあるな。
そんなことを考えていたら、急に息が苦しくなってきた。たぶん、パンが詰まった。
「た・・・タンマ・・・、息が・・・息・・・が・・・!」
「え~!?何してるのよ!ほら!水!」
谷原は呆れたように、水筒を渡してきた。俺は谷原から水筒を受け取り、一気に飲む。
「・・・ふぅ~!息が!息ができるぞ!」
「・・・あんたねぇ・・・。」
谷原はやれやれとため息をつく。
そんな谷原を他所に、俺はある物を見つけた。
「なぁ、谷原・・・。これ、何だろ?」
俺の指差す方向には、見るからに怪しそうな穴が、空中に浮いていた。丁度、漫画とかアニメに出てきそうなやつだ。
「ちょっと・・・見るからに怪しそうなんですけど。近寄らない方がいいんじゃない?ほら、小説であるじゃない。なんか穴があって、吸い込まれて別の世界へ~って。」
「それは小説だろ!?現実でそんなことあってたまるか!」
谷原は大の小説好きだ。全く、小説のことが現実であるわけないじゃないか。
俺は恐る恐る穴に手を入れた。
「ちょ!八子!あんた大丈夫なの!?吸い込まれるかもよ!?」
「んなことないって!・・・・・・ん?何かつかんだような・・・。」
俺は、穴の中に、何かがあるのに気がついた。俺はゆっくりとそれを引き出してみた。
すると、中から、人らしき生物がズルリと出てきた。
「いやぁぁぁ!」
「うっわぁぁ!な、な、なにこれ!」
俺と谷原は、すっとんきょうな声をあげた。
ずんぐりむっくりとした体型、緑の肌、大きな耳、丸い鼻、短い身長、ややぽっこりしたお腹。ボサボサ頭。
特徴としてはこんなところだろうか。とにかく、何やらすごいのが出てきた。ただし、一つだけ言える。地球人ではない。
「や、八子!何だしてんのよ!色々困るじゃない!つっこみどころとか・・・。」
「俺のせい!?そんなこと言われても・・・。」
「それにしてもこの子・・・、傷だらけ・・・。どうしたのかしら・・・。」
谷原が心配そうに謎の生物の頬を触る。すると、謎の生物はハッと目を覚まし、ガバッと起き上がった。
「ハッ!・・・こ、ここは・・・?」
「きゃぁぁ!う、動いたぁ!」
「うわぁぁ!生きてた!」
俺と谷原は、またもや驚いた。
謎の生物は、俺達の声に、びくっとなっていた。
しばらくして、互いが落ち着いたところで、俺達は、この生物と会話しようと試みる。
日常じゃ絶対有り得ないことだ。
「あの~?ど、どちらさまですか?」
「えっ、ぼ、僕は、トルク=ブライルといいます・・・。き、君たちは・・・?」
通じた!俺すごい!と心で思いながら、質問に答える。
「俺は八子 健太郎。中学二年生だ。」
「はぁい、私は谷原 由井と言います。ところで、トルク君、その傷は・・・?」
「はい・・・不覚にも、旅の途中に魔物に襲われてしまって・・・。」
「いいものあげようか?」
谷原は、バッグから絆創膏を取りだし、トルクの頬に貼り付けた。
しかし、何で谷原はこうも平然としてるんだ?俺なんて未だに訳がわからない。俺は、ヒソヒソと谷原に耳打ちをした。
「なぁ・・・、お前何でそんな冷静なんだ?しかも、何かウキウキしてない?」
「だって、この子かわいいじゃない♪あーもう、このぷっくりした体、たまらない~♪」
「むぐっ、く、苦しい・・・。」
谷原はトルクにひしっと抱きつき、頬をすりすりした。勇気があるなぁ。
一方、トルクは谷原の胸に顔が埋もれていて、苦しそうにじたばたしていらる。
ふむ・・・、これが俗に言う、ぱ○ぱ○とやらか・・・、うらやましい。
そんな淫らな感情は抑え、俺はトルクに訪ねる。
「トルク・・・、お前、これからどうする?」
「・・・元の世界に戻ります。やらなければいけないことがあるので。・・・って、さっきの穴がない!!」
「えええええ!?」
先程トルクが出てきた穴が、跡形もなく消えていた。
そこで、谷原は何かを閃いたように手を叩いた。
「そうだ!八子の家にお泊まりしたら?」
「ええ!?なぜそうなる!?」
「あの・・・、僕は大丈夫です。これ以上迷惑かけるのも、失礼です。・・・では。」
そういって、トルクは後ろを向き、ゆっくりと歩きだした。
うう、何か気まずい。・・・仕方がない。
俺は、覚悟を決めて、トルクを呼び止めた。
「俺の家でいいなら・・・、泊まってもいいぞ!よろしくな!」
「いいん・・・ですか?・・・ありがとう・・・ありがとう・・・!」
トルクの目からは、涙がぼろぼろとこぼれ落ちていた。俺はトルクのボサボサ頭にポンと手をおいてやった。
すると、谷原はバツの悪そうな顔で、こちらにきた。
「あの~、いいところに失礼ですが・・・、学校、もう遅刻だよね・・・?ヤバくない?」
「あ~!!!!!!」
すっかり忘れていた。俺が通う学校は、八時半が門限。それ以降は遅刻になる。
そして、今の時間は八時三十六分。終わった・・・。
「わりぃ、トルク!ちょっとあの公園で待っててくれないか!?俺達学校があるんだ!わりぃ!」
「学校・・・?」
「じゃあ、トルク!また会おうな!」
俺達は公園のベンチに座り手を降っているトルクを尻目に、一目散に学校に駆け出した。
こうして、突然異世界からやってきたドワーフのトルクと俺達の、波乱に満ちた学校生活がスタートした。




