【Hiding】7 警察はマズイ
「月影落ちて 鈴虫鳴く♪ 」
「この状況でよく唄えるね。ほりりん」
絶賛拉致られ中の二人だが。唯の機嫌は良い。綺麗な声が響く。
「お父様や和人さんが助けに来てくれますから」「和人さん? 」
潤子は眉を顰めた。いつの間にコイツ男が出来たんだろう。どちらかというと唯もまた女にもてる。
「ええ。カッコいいんです。無口で優しくて。小説も書くんです」「ふうん」
「『フォッグ』さんです」「ばぶっ! 」潤子は盛大に噴いた。
薄暗い倉庫の中に沈黙が流れた。
「まさか、私の正体ばらしていないでしょうね」
潤子はなろうの中では32歳独身男性と言うことになっている。
ついでに言うと歴史小説とチ○ポチ○ポイェーイな作風だったりする。
間違っても人に言えるワケがない。
「ま。まさか」
唯の表情が硬くなる。潤子の瞳が細くなる。
「そ、そのようなこと。口を滑らせても黙るはずが」
喋ってるぞ。喋ってるぞ? 唯ッ
二人は縛られているので動けない。
故に潤子は自分の頭をゴシゴシと消しゴムのように唯にこすり付けた。
「消えろ。消えろ。消えるんだ」「潤子さま。酷いです」
「おしゃべりは針山地獄に」「ちょっとしたお話の流れの出来心で」
「最近『フォッグ』さんが馴れ馴れしいと思ったら」
美少女揃いと評判の神楽坂高校文芸部の集合写真でも唯と潤子はかなり目を惹く位置だったりする。
唯は顔立ち。潤子は胸とか胸とか。胸とか。
「まさか、カズチャ……和代お姉さまの顔も」「教えてしまいました」
「死ね」潤子はお嬢様言葉を辞めて素に戻った。
その言葉を聴いて唯の涙腺は決壊したが、潤子の悪態はやむことがなかった。
「みんな死んでしまえばいいんだ。特に『親友』とか言い出す馬鹿は」
自分を売った。馬鹿みたいに。
「お花を詰みにいきたいですね」
「あんた。人の話聞かない子って言われてるでしょ。莫迦お嬢様」
潤子は悪態をついた。そしてため息をつく。
「カズチャン。私のことわかるかな」
「和人さんがくれたヘアバンドに発信機がついています。大丈夫です。彼は来ます」
「あんたら、どういう関係だ」普通、恋人に贈るものでも発信機なんてつけないから。唯。
ちなみに、用意したのは真だったりする。
「それに、警察もそろそろ動いているでしょうから」
「警察? 」唯の言葉に潤子の顔が一気に青くなった。「けいさつ……けいさつ」
潤子の実家は山形の不動産会社であるが、警察内部での『風鳴潤子』は『家出少女』として扱われている。
そして。和代は五人もの男たちを『再起不能』にした暴行犯になっている。
「警察は。マズイ」「??? 」
カズチャンと一緒にいれなくなる。
色々な人々の親切と、暖かさで。
神楽坂高校にきてからの潤子は幸せだった。
唯は少々ウザいが、実は嫌いでもない。
憧れの制服を身に纏い、学問に励む日々。
銭湯兼コンビ二の店員として地域の皆に可愛がられ、愛され。求められる。
この幸せが壊れるなら。死んだほうがましだ。『死んだほうがマシ』だ。
「逃げよう。ほりりん」
「大丈夫です。なんとかなります」
その根拠を示せ。唯ッ
「それよりお花を詰みに行きたいのですが」「そのまま下着ごとしちゃえ」
めんどくさそうに潤子が応えるので「嫌ですよ」と唯は呟く。
「カズチャン。ハヤクキテッ! 」「和代さんがいらっしゃるのですか」ならば安心ですね。唯が微笑む。
潤子と和代の絆は固い。故郷を逃げてからの二人の逃避行はお互いの存在を抜きには語れない。
「トイレくらいは行かせてやってもいいが。先に俺たちを」
下品なことを言いながらニヤニヤと笑う男たち。聞かれていたらしい。
「お花を詰みにいくだけです」「お前、頭の中身がお花畑か」
唯は馬鹿ではないのだが、低俗すぎる会話にはついていけない。
「どっちでもいいけど、やっぱこっちの」
男たちの好色な瞳が『いかにもお嬢様』な唯に注がれる。
「やめてよ」
潤子は呟いた。
「おお。流石便器様だ」
男たちは楽しそうに笑う。
「順子さん。雷を出せるんですね」「「「それは雷様だ」」」
イチイチぼけるな。唯。




