【Hiding】5 この服を汚さないで
「あ~~~~~~~~~! ほりりん見つけたぁ~~~~~ 」
エプロンを纏い、『スーパーでお使い』を楽しむ唯は。その声の主を知っていた。
ぎぎぎ。
まさかそんな音がしたわけでもないのに、ぎこちなく唯の首が後ろに動く。
「じゅ、潤子。様? 」「いえーす♪ 」
ニコニコと微笑む潤子だが、絶対唯の味方ではないことだけは間違いがない。
唯は毎日十キロメートルを走り、合気道の有段者だが、潤子は意外と運動神経も良い。
加えて『何故か』巧みな寝技を使いこなす。
和代すら舌を巻く高速タックルでタップされたら、唯とて危ない。
「い、いくらですかっ?! 」唯は即座に金で買収することを選択した。
お小遣いを資産運用していたので銀行貯蓄のみで壱千万ほど唯は持っている。持ちすぎだ。
「う」以前真に唯を引き渡すだけで和代と共に合計四百万円を得た潤子は一瞬思考が停止した。
その隙を突いて唯は潤子の腹に当身を一撃。素早く転ばせて。
「だ、大丈夫ですかっ? 」潤子が何か言う前に助け起こすフリをして首に腕を絡ませて落とす。
「と、友達が急に倒れたんですッ! どなたか救急車をッ! 」
落としたのはお前だ。唯。繰り返す。落としたのは貴様だッ! 唯ッ!
唯は気がつかなかったが、潤子は息せきかけて走っていた。
唯は知らないが真は金で買収できる相手を二度も使うことは絶対に無い。
唯は理解していなかったが、潤子は追われていて、人の多いスーパーに逃げ込んだだけであり、
唯が思ったように真の追っ手として行動していたわけではなく、純粋に唯に助けを求めようとしていただけであった。
唯はあずかり知らぬことだが、彼女の護衛は別に存在する。
だから、
妙にイカツイ顔の人々が救急車代わりに黒い外車二台に唯と潤子を乗せても。唯はあまり気にしなかった。
「これはどういう状況なんでしょうか」「ほりりんの莫迦」
薄暗い倉庫の中で、ぐるぐる巻きの女学生二人を柄の悪そうな若い青年がニヤニヤ笑いながら見下ろしている。
「久しぶりだなぁ。潤子。会いたかったぜ」
妙に仕草がクネクネしていて気持ち悪い。
しかし、唯は。
「順子さんのお友達ですか」とだけ無邪気にいってのけた。
ボケるな。唯。
「別に。私はあんたなんかに会いたいとは思わなかったんだけど」
と、いうか。と潤子は続ける。
「この白い制服、汚れが目立つんだけど、立たせてくれないかな」
潤子は青年を睨みつけた。
「おお。怖い怖い。便器の癖に威勢がいいこと」
青年は肩をすくめて見せる。潤子の表情は硬い。
「そうですね。もう少し明るいほうが良いと思います」
「それは電気だ」「それ。ちがう。ほりりん」
唯のボケに思わずしらけた二人はお互いため息をついた。
「知り合いか」「多分。友達」
「多分ってなんですかっ!? 親友ですよッ?! 」
唯のボケに思わず同情した青年。状況がわかってなさ過ぎる。
「まぁ、『親友』なら一緒に連れてきて良かったぜ」
青年は嫌らしい笑みを浮かべて潤子の顎を掴んで、舌を彼女の頬に這わせる。
「和代と。一緒にいるんだろう? 」「……誰? その子」
「とぼけんな。何度も何度も逃げやがって。てめぇ一人で逃げ切れるわけねぇんだ」
青年は潤子の頬を張り飛ばすが。潤子は動じない。
「服を汚さないでよ。クリーニング代高いのよ」
それだけ呟いて。黙る。
「では私が出しましょう」「……」
潤子も動じないが、唯もまた動じていない。
「おい、この女誰だ? 」「知らない。見たことも無いわ」潤子は嫌そうに呟いた。
「だから、親友だと」「黙ってよ。ほりりん」「お前は黙ってろ」「はい」
唯はしゅんと落ち込んだ。青年と潤子は見事に合わせてくる。
「まさかお嬢様のフリをして潜伏してるなんて。そりゃわからねぇわ」
ゲタゲタ笑う男に潤子は毅然として応えた。「この子は関係ないわ。帰してあげてよ」
「御実家は山形のほうの不動産会社だと」「『私』はね」
この後に及んでも。唯は状況が理解できていない。
「そいつは風鳴潤子。俺が追っているのはそいつの相棒さ」「かざな? 」
俺の『息子』の敵でねとその青年は笑う。
「『高峰和代』って言うんだ。知らないか? 」「存じませんわ」
唯は思いっきりウソをついてみせた。それはそれはもう。見事なウソのつきっぷりだった。




