【Hiding】2 朝チュンと人は呼ぶ
「眠い」
澪は大あくびをした。真面目に眠い。
「唯さん」彼の手を握って離さない少女に苦笑いした澪は彼女を起こさないよう細心の注意を払って少女の絡みついた指を一つずつ外す。
早朝の爽やかな風とチュンチュンと何処からか聞こえる雀の声。
こう書くとなんらかの事後の演出のようだが、澪に限ってそんなことは無い。
「(電波でなければ、可愛いんだけどな)」
澪はベッドでいまだ安らかな寝息を立て続ける少女を眺めながらパジャマに手をかける。
女性的なほっそりとした腰つきに程よく鍛えられた胸元が露出し、学生服のカッターシャツに着替える。
ブカブカの女の子趣味のパジャマは丁寧に畳んでおく。
まだ5時になっていない。朝の弱い澪には珍しい。
頭をバリボリと掻いた澪は風呂場に向かい、服を脱ぎ水を浴びる。
滑らかな白い肌を水滴が舐めるように流れ、寝汗を流してくれる。
「眠い」
適当にパンをかじり、余った珈琲を口に含む。
「ふああああああああ」
そして、彼は結局使わなかったゴムの入った袋をゴミ袋に放り込んだ。
自分の腕に抱きついて安心しきった表情で眠る唯。そして。
隣の部屋で謎の声が聞こえるのはなかなかの地獄である。
澪の両親は二人ともまだ若く、夫婦仲が宜しくて結構なことだが、思春期の息子にとっては大迷惑だ。
いくら若くて美人美形と近所で評判でも、親の絡みなんざ見たいとも思わない。
「はぁ。まぁいいけど」
早く起きすぎた。霧島のヤツは今の時間は自主練習で走っているはずだ。
「俺も、ちょっと走ってこようかな」色々悶々して眠れなかったし。
適当にパーカーを着て澪はスニーカーを履く。
「澪さんも走るのですか」「うん。たまにはいいかなと」
「……」「……」
ニコニコと笑う少女は。とてもとても見覚えがある。
「私も毎朝10キロは走っているんですよ」
走りすぎだろ。なんなんだ。この娘。
「良い創作には、程よい運動が良いと」
程よくない。程よくない。澪はぶんぶんと首と手を振るが、唯は気にしない。
「では、行きましょう」
ずるずると澪を引き摺り、唯は走り出した。
というか。無茶苦茶早い。お前はどこのグラスランナーだ。




