【Stealth】9 澪と新堀の執筆
「(や、やりにくい)」
澪は額からダクダクと汗がでていた。
別に酷暑の所為ではない。
澪の後ろに音もなく立つ『ホーリー』。
彼女は澪と視線が合うと恥ずかしげに微笑んだ。
「気になさらず。書いてくださいな」
無理ッ! 無理ッ! と澪は内心叫んだ。
霧島や両親にだって書いているところは恥ずかしくて見せられない。
澪はテンションが上がるとキャラクターの会話を思わず口に出してみたり。
その場面の雰囲気に合わせたオリジナルテーマソングを即興で口ずさんでしまったり。
挙句の果てには身体を動かして敵味方の武術を再現してみようとしてみたり。
とにもかくにも、女の子の目の前で出来る行動ではない。
「邪魔にならないようにここにいます」そうのたまい、澪の背後に立つ『ホーリー』こと新堀唯。
めっちゃくちゃ邪魔なのだが、彼女には悪意は無い。
唯が言うには澪の作品は昔の少女冒険小説を思わせる素晴らしいファンタジー作品であり、
評価されないほうがおかしい。らしいが。
「(だったらPかお気に入りに入れて欲しい)」
澪は内心そう思っていたが、外されたときの精神ダメージのほうが深そうなので黙った。
『ホーリー』のユーザーページを見るに、彼女はお気に入り小説や評価した作品が存在しない。
普段の文芸部内では、部員全員で本人と目を合わせて皆で感想を言いあう。
新堀の創作活動における人間関係は基本的に完結している。あえてなろうで増やす必要性はない。
「名作はこのお部屋で生まれているのですね」
趣味の良い音楽に男性の部屋とはとても思えないほど清潔に掃除の行き届いた部屋。
何故かある可愛らしいぬいぐるみの数々。これはクラスメイトの女の子達に貰ったものである。
「名作って。あのね。ホーリーさん」「唯です」
キラキラと目を輝かせながら澪の書いている様子を見ている唯を見て澪は覚悟を決めた。
「その、あの、俺、気合が入ると変な事言い出したり、唄いだしたりするんだけど」「? 」
これは。恥ずかしい。
「だから、その登場人物の掛け合いを口に出してみたり、
状況に合わせてついついテーマソングを」「何処が可笑しいのですか? 」
唯からしてみれば、一度書いたものを朗読してつっかえがないか確認することは別に可笑しくは無い。
「私も、一度書いたものを読み直しますよ」「そ、そうすか? 恥ずかしいな」
澪が恥ずかしがるのを見て、「では私も更新してみますね」とのたまう唯。
澪のベッドに腰掛け、華やかに微笑む。
「え……」
先ほどまで澪が寝ていたベッドである。唯の視線が気になるので起きてしまったが。
「携帯、お借りしますね」「う、うん」
顔が赤くなる澪を尻目に、『表』のポエムの更新を行う唯。
「君の瞳。僕は追う」
「君は何かに心奪われ、その目はきらきら」
……。
……。
「今日は陳腐な言葉しか浮かびませんでした」
そういって口元をへの字にする唯に思わず拍手をする澪。
「い、いや、いい朗読でしたよっ? 」「肝心の詩の出来が悪いのです」
澪はそういわれてもポエムのことなど解らない。
「やっぱり」
恋を知らないのが原因なのでしょうか。
そう呟く唯に、澪の胸は高鳴った。




