Trackback(トラックバック)!!! 宇宙(そら)から君をながめたら プロローグ
「よし。皆寝静まったわね」
暗闇の中、抜き足差し足忍び足。どう見ても泥棒だ。
しかし、彼女はこの家の主人の娘だったりする。困ったことに。
「まったく。お父様には理解が足りません。
文芸部の部長が何も書かないわけにはいかないでしょうに」
ため息をつく少女。黒い髪に黒目が目立つ端正な顔立ち。やや太目の綺麗な形の眉が意思の強さを示す。
「昔は原稿用紙を使ったそうですが、膨大な文字数を書くならばぱーそなる・こんぴゅーたですよね」
きょろきょろ。ニコリ。目標補足。父親の仕事用のPCだ。
「さぁ。今日も頑張って書きますッ」
少女は悦びに打ち震えるように頬を赤らめて、父親のPCのパスワードをあっさり解除。
機密データを華麗に無視して直にURLを打鍵。パスワードとIDを入力し、自らのユーザーページに飛ぶ。
「うふふ」
彼女は楽しそうにユーザーページに入ると、そこには当たり障りの無い短編や文学小説。
お気に入り小説は昨今の流行を完全に無視した文学。詩など。
はっきり言うとなろうではありえないほどマイナージャンルだ。層も薄い。
しかし、彼女の真意は『ここ』ではない。
彼女の右手に握られたマウスがすっと右上を指す。「ホーム」より更に上。
目立たなくなっている表示。灰色の箱。「Xユーザページへ移動する」へ。
普通のユーザーページと明らかに違うピンクと赤の表示。
ずらりと並ぶお気に入りユーザーの更新情報と活動報告。
まず、お気に入り作家の更新状況をチェック。同時に活動報告も閲覧。
表のページと違い、活動報告にコメントすることは出来ない。感想に書くしかないのだ。
また、書くときは通常のユーザーページに戻らなければならない。微妙に使い勝手が悪い。なんとかしろ(←え?)。
「ああ。素敵ですわ」
彼女はまだ恋を知らない。官能小説の世界は保険体育や医学の本の延長にしか感じていなかったが。
「こんなに嫌らしくて、官能的で、素晴らしいなんて」ため息をつく。
当たり障りの無い文学作品しかしらなかった彼女には少々刺激の強すぎるものだったが、
あっというまに嫌悪感よりも好奇心が勝ってしまった。
そして、18禁サイトと言うのはアクセス数が多い。本当に多い。通常の10倍はある。
彼女の発表する文学作品や詩が悪いというわけではない。興味を持つなろうユーザーがいないだけだ。
反して、彼女が戯れに想像のみで書いた官能小説は短編ながらあっという間に300以上のユニークアクセスをたたき出した。
そして、今まで貰ったことのない忌憚の無い感想がついた。
普通の人間なら、最初の感想が酷評であれば心折れるだろうが。
「こ、こんなにハッキリと私の書いたものの欠点を指摘してくださるなんてっ」
褒められることはあってもけなされたことがまったく無い彼女は『少々』特別だった。
新堀唯。
県屈指の商社の跡取り娘にして、山の上のお嬢様学校と皆が称する『私立 神楽坂高校』の文芸部部長。
そして、ユーザーネーム『ホーリー』。
なろうでは泣かず飛ばずだがムーンなサイトではランキング上位を争う官能小説の書き手であり。
「む。書斎に灯りが。誰かいるのか? 」「いませんわ。お父様」
「ふむ。では外からしっかり鍵をかけて、ブレーカーの電源を落としておかねばならんな」
「しょ、少々お待ちを御父様ッ?! 辞めてください! 辞めてくださいませ~~~~~~~~~! 」
親に隠れてなろう投稿をするイタイ子でもあった。合掌。




