6 書くことは俺の正義
「やってくれやがったなぁ」
副社長は新聞をめくりながら苦笑い。「こりゃ、センター争いの選挙に響くぞ」
ずず~んと落ち込む三人にトドメを刺す。
そういってチラリと社長のほうを見ると彼女は憤慨したかのように胸の前で腕を組む。
「そういえば、奈津蛇さんに食事に誘われていませんでしたか? 社長」クククと笑う副社長。
奈津蛇と言うのは作詞家だ。この世界の裏のドンとまで言われている。
ちなみに、作詞の才能はと言うと金儲けと演出、権力を操る才能はあるのだが、既に枯れている。
「商売の話より、人の胸ばかり見るので、帰ってきたが? 」「社長はHカップだからそれは仕方ない」
あははと笑う副社長を愛おしそうに小突く社長。
「あんたの所為か」美幸はそのやり取りをみて苦笑い。
「そもそも、妻がいる身でやましい目で私を見るほうが悪い」
「その奥さんも周りに恋愛禁止といっておいて手をだした元アイドルだしなぁ」
義樹と美玖は苦笑い。ちなみに、この副社長はグループの意向はほどほどに流してくれる。
「てか。沙玖夜さん。男なんだからそりゃ無理だって」
美幸はそういって弁護する。社長・沙玖夜は普段からおとなしめの服装だが、それでも男目を強烈に惹く。
「グラビアアイドルを手がけようとしたら全員脱走したからな。『社長がやれ』って」
そういってクケケと笑う彼女の夫にして副社長。
「私の顔立ちなど平均的な人類のそれなのだが」
そういって落ち込む社長。時々子供っぽい。そこが美玖たち三人に慕われている秘訣だ。
「でさ。明日は三人で唄えばいいんだよね? 」「ああ。だが、素の歌になるから気をつけろよ」
『暴挙! アイドルがファンに蹴り! 』『人気アイドルMさん。口パク? 』『疑惑・MMMトリオ! 』
と書かれた雑誌をひらひらさせながら副社長はだらしの無い笑みを浮かべた。
「どうして、アイドルっているのかな? 」「ん? どった? 桃衣? 」
副社長はいつでも三人の目線に合わせて話しかけてきてくれる。腰を落として。
「だって、ウソじゃん。全部ウソでしょ」「……」
桃衣は既に、この仕事に嫌気がさしていたのかもしれない。
凍る場に楽しそうな笑い声が響いた。
「ちがうぜ。桃井。『俺は前にお前に言ったが』」「なに? ミユキちゃん」
「ウソだろうが、なんだろうが、人を喜ばせるものは、喜ばせたって事実を残す」
「偽者? いいじゃないか? 俺は堂々と口パクしてみせるぜッ! 」
そういってマイクを持って唄いだす。
「あああ~?! ウソだらけ 盗作だらけ! 」桃衣は噴出した。
「本物と偽者、違いをおしえてください。教えてよッ?! 」義樹も続けた。
意外なことに即興のラップに社長夫妻も乗ってきた。
「あなたいて、それはウソでも私は救われる。救われた」「お前いて、俺様幸せっ! 天昇るッ! 」
ヘッタだなァ。桃衣は呆れながら合わせてみせる。
「夢って何でしょ? 幸せのため? 私は幸せ!
夢のために捨てる幸せ犠牲になる幸せなら、私は幸せを捨てます! 」
プップ~。何処からとも無くラッパを取り出した社長が合わせる。
本当に、自分がアイドルになったほうが良い。
「真似じゃないなら、『お前』を見せてみなよ。桃衣」
桃衣は頷いた。
「いい事を教えてやるぜ」
副社長は腕を組みながら楽しそうに笑う。
「地動説ってヤツは創作の世界じゃウソだ」「は?! 」「ちょ? 」
科学を否定するな。
「世の石はダイヤだろうが、ただの石だろうが、磨いて初めて光る」
副社長は笑った。
「光をくれるのは、周りの星。読者や視聴者さ」
そりゃ、インチキもたっぷりして、光が集まるようにするがねと続ける。
「アイドルだか小説家だかしらないし、どうなるのかなんて俺には知ったことじゃねぇや」
そういってどっかりとソファに座ってみせる。
あとはわかるな? とその口元は笑っていた。
「あたしたち、太陽じゃないってこと? 」
「そう。作家だか『くりえいたーさま』だか知らんが、
自分が世界の中心になって、輝いているって思うのは勝手だが。そりゃ違う」
ちょっと踊ったり唄ったりしただけで、人生の悲哀に勝てるか? んなわけねぇなと続ける。
「小さなお星様たちの希望の光をたまたま受け、
照り返して、輝いているだけの石の塊。それがお前たちだ」
「この傲慢な石ころどもっ! 命と希望を受けて煌く地球になって来いッ!!!! 」




