5 夢よ! 届け!
―― 桃衣。なに書いているんだ? ――
「うん。ミユキちゃん。あのね。ミユキちゃんの真似をして私も書こうかなと」
―― アイドルモノ? 変わったもの書くなぁ。てか、俺達まで出すか? ――
「ふふふ。そこは許してよ。タイトルは『夢よ! 届け』……いいでしょ?」
抜けた髪の毛を誤魔化すための毛糸の帽子をつけた少女は『戦友』の少年に微笑んだ。
「夢ねぇ? 俺達なんて夢だのなんだの言う前に死ぬじゃん」「……そうね」
この小児科病棟は重症患者の集まりで、桃衣こと美玖とミユキこと川島少年の二人は『古株』に属する。
『先輩方』は星のかなたに旅立ってしまった。次は川島少年こと美幸か、あるいは美玖本人か。
「義樹。きてたぞ」「忙しいって言っておいてくれた? 」
苦笑いする少女に肩をすくめて見せる美幸。
「髪の毛、抜けちゃったし。骸骨みたいにガリガリだし」嫌だよねと呟く戦友に美幸はかける言葉がない。
「アイツはそんな細かいこと気にするのかなぁ」「女心に疎いよね」「まったくだ」
美幸は桃衣の車椅子を軽く押す。美玖の身体は驚くほど軽かった。
……。
……。
「しんどい」「桃衣、体力ありすぎ修正しろ」
義樹と美幸が地面にへたり込んでいるのを見て美玖は苦笑した。
「ほら、アイドルが地面にへたり込まない」「無理。死ぬ」「社長のおっぱいで考える」
その様子をニコニコ笑って見ていた社長は拳をパキポキと鳴らした。
『ドッキリ! トップアイドル口パク疑惑? 』
大きく見出しに記されている記事に副社長が苦笑い。「早速来たかぁ」
「うわ。えげつねぇ」「だね」「……」三人は口を顰めた。
「『研修生Nさんが語る。私はMさんの歌を代わりに歌っていた! 』」
「アイツ消されるぞ」「うーん……」「おいおい。こんなの書いて大丈夫か」人事ながら心配だ。
というか、自分のことでもあるのだが、三人ともあんまり実感がわかないらしい。
「Nは元々」以下、自主規制。
「やっぱり、嘘ってばれるわよね」自嘲する桃衣の肩を抱く義樹。
「こりゃ、あさっては俺達のバックコーラスで誤魔化すしかないかなぁ」「かもなぁ」
美幸も義樹も綺麗なボーイソプラノの持ち主だ。二人の歌唱力は折り紙つきである。
最も、いつ変声期を迎えるか判らない二人を使い続けるのは危険なのは明らかであった。




