2 霧島の受難
「くそっ。たれ」霧島は悪態をついた。
今倒したのは何人目だ? 部恒例の百人組手じゃねぇんだぞ。
敵は素人揃い。しかし、何度倒しても復活してくる。ガッツありすぎだろう。
「骨の二、三本折るべきか」大会を控えた今、大事になるのは避けたいのだが。
「と、なると」ちらりと相棒を見る。
生憎と彼の相棒は震える幼い少女を守るように後ろから抱きしめていて動かない。
『呼吸がなっていない。覚悟が足りない』
「んなこと言っても鈴木先輩。俺は」
実力では空手部二年生では一番だといわれていたし、そう思っていたが。
還暦前にしていまだ部活に出入りするOB。
『鈴木照正』が彼、霧島を評した言葉だった。
「数多すぎ、ファイトしすぎ」
わらわらわらわら。脂肪で覆われた身体にはなかなか有効な打撃が与えられない。
霧島の空手はその恵まれた生来の圧倒的な身体能力で一気に決めるものだ。
長期戦は苦手だし、短期決戦では有効な彼の体重は現在スタミナを奪う形で不利な状況へと追い込んでいる。
「おまけにヒカリモノとか」高校生相手に辞めてほしい。
あと、夏場なのに防刃ベストかなにかを身に纏っているっぽいのも連中の頑丈さの秘訣か。
「! 」
霧島にとりつくキモデブ軍団。かなり臭いがそういう問題ではない。
なぜなら麻薬中毒患者のようなにごった目をした痩せた男が刃物を手に彼に襲いかかろうとしているからだ。
「おい!? 」
霧島はたまらず相棒の名前を呼んだ。
しかし相棒は動かずニヤリと微笑むのみ。
「へ? 」
霧島に突っ込んできた刃物男の頭をサッカーボールのように蹴った細身の影。
「おんな? 」にしては長身。そして女性独特の柔らかい動きはない。その動きは切れの良い刃のよう。
しかもあれは脛で蹴っていた。女性もうらやむほど細く長い脚で。
「れれ? 」
霧島を捕まえていたキモデブどもは尻を押さえて悶絶している。
「どーなってるん? 」ボケーとする霧島の尻を軽く衝撃が走った。
「マシンガンカンチョー。26の暗殺技のひとつだ」そしてこれは親愛カンチョー。
悶絶する霧島を楽しそうに見下ろす美しい少女。何故にカンチョー。
「??! 」
『親愛カンチョー』の一撃の衝撃から地面にひざをついた霧島の目に、相棒と幼い少女を狙う影が映った。
「ま、いっか」仕事しろよな。
みてみると長身細身の少女も小柄な少女もニヤリとしている。
弱点を狙われたわけではない。狙わせたのだ。
彼ら二人が浮かべる笑みは『本命』を引きずり出したという対する勝利の笑みだった。
女性と見まごうものが多いが、彼の相棒は女性ではない。
先ほどまで守っていた少女を脇に退避させ、祈るように両手の指先を軽く合わせる。
「すぅ」
『歴代最小最強』。鈴木をしてそう評した霧島の相棒。
『御鏡澪』が両手で放った一撃は易々と大男を吹き飛ばした。




