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Review(レヴュー)!  作者: 鴉野 兄貴
くじけそうになっている男の子
5/149

3

 窓沿いの席で物憂げに想いに沈む澪。

「おーい。おーい。澪」


 霧島の声も届かないようだ。

澪は自信のあった自分の作品が感想一つないまま終わった事実に沈んでいた。

そのまま削除すら考えたが。何故か出来なかった。自作の主人公達が喜び笑い泣いて怒って歩んだ道のり。

それを消すことが彼には出来なかったのだ。窓からの風が彼の前髪をくすぐっていくが彼の意識には入らない。


 主人公。アキレウスはどうなるのだろうか。作者だから全て知っている筈ともいえるしそうでも無いといえる。彼から見た自作の主人公はまだ見ぬ友達のようなものだった。ヒロインも彼自身の幼馴染か従姉妹のような気持ちで描いている。最後まで書いてあげたかったけど。

書き始めた当初はアニメ化を妄想しながら自作のオープニングテーマソングを唄いつつ書くほどノッて書いていた筈なのに。澪は初心を忘れつつあった。


 石ころなのかダイヤなのかは磨いて見なければ分からない。

だが、光が当たらないならば、誰も見ないならば石ころかどうかすら分からない。

石ころを磨くのは自らしかいない。澪の作品に足りないのは人の目と言う光である。

いつか光が当たるときのために輝き返す為に墨にまみれた石を磨き続ける意欲。

それらは磨いても磨いても。書いても書いても反応のない事実にぽっきりと折れつつあった。

 物思いに沈み、声が届かない澪。そんな彼に親友は肩をすくめてみせた。

「澪。キスするぞ」そういって、可憐な澪の唇に息がかかるほど近づいてみせ、彼をからかってみせる。


 澪は物凄い勢いで霧島の背後に回りこむと華麗な投げっぱなしジャーマンを放った。

159センチの小柄な身体だが、澪は怪力である。正気にもどった澪と霧島。二人の闘いのゴングが鳴った。

沸き立つクラスメイトたち。「始まったぞッ 」お前等普段何をしているのだ。


「澪タン! 澪タン! 」女生徒の黄色い声。

「き~りしま! き~りしまっ! 」スタンディングオペレーションを放つ野郎ども。


 澪の容姿は男の服を着ていなければ女性そのものだ。

女の子たちは澪を男と見ていない。思いっきり友達か愛でる対象と見ている。


「可愛いと思われたくない! 強くなりたい! 」


そういって澪は霧島と空手部に入った。空手着を纏った澪は男女共にかなり人気がある。人見知りの癖に。この学校には、女子が(やや)少ない。つまりそういうことだ。


 小柄で色白、細身の澪は妙な色気がある。インナーシャツも着ないし。

三年生の先輩は練習で着崩した澪に対して時々人には言えない悶々とした思いを抱いたり抱かなかったり。修行不足である。一年生は澪との組み手を切望する。

 澪が空手ではポイントに入らない筈の投げ技崩し技を柔道部に出入りして習得したのは相手を傷つけないようにするためである。優しい子だ。

 後輩や先輩達から打撃技より崩し技や寝技をかけてほしいというので素直な澪はそうしている。

もちろん、後でハァハァされている。そんなことを知ったら澪は空手を辞めるだろう。


 閑話休題。

ガタガタと机を移動して教室の隅にもっていくクラスメイトたち。

数少ない女生徒を守るように机の前の特設席につく野郎共。はしたなくも机の上で飛び回って二人を応援する女生徒たち。賭け率を取るヤミ役の生徒。教室は即席のリングと化した。


 「どうやら。お前とは決着をつけねばならんようだなっ! 」

叫ぶ霧島は176センチ。体格では圧倒的に有利である。手足もモデルのように長い。

 「やれるもんならやってみろ! 」

返す澪は努力家である。霧島相手にもいい勝負をする。


 二人とも近くにあった筆入れを引っつかんでマイクパフォーマンス。ノリノリである。

二人の関係を知らなかった当初と違い、今のクラスメイト達は二人の争いを止めない。

 もっとも、この二人のじゃれあいは昔からなので、

霧島は無意識に澪を傷つけないように動く技を身につけている。

澪はそんなことは知らない。昔から霧島と互角だと思っている。

  微笑みながらすっと霧島の手を握る澪。

霧島に対して即座に「リア充爆発しろ」と声が上がった。

それほど色気がある上、可愛い所作だ。澪には自覚がないが。

喧嘩(?)してたり、男の服を澪が着ていなければどうみても逢い引きである。


 しかし。


「あっ? 」霧島は指が変な形に組まれていることに気がついた。

「ふははははっ! これが指四の字だっ! 」


 何処で覚えた。澪。


「いてぇ? いてぇ? 」バカバカしい技だが、かなり痛い。霧島は素晴らしいパフォーマーだ。

手を振ってその技から逃れようとするが、澪の指四の字は見事に決まっていて、逆に痛い。

 「ふははははっ! 僕をオカマ呼ばわりするやつはこうなるのだっ! 」

また女生徒の筆入れを引っつかんでマイクパフォーマンスを始める澪。

言ってない。言ってないから! 澪! 被害妄想はやめろっ!?


 適度に手をぶんぶん振り合い、「指四の字」が如何に痛いかを観客クラスメイトにアッピールする二人。喧嘩しているのに。

「き~りしまっ! 」「き~りしまっ! 」

「澪タン! 澪タン! 」「澪タン! 澪タン! 」クラスメイト達もノリノリである。

ちなみに、澪も霧島も空手の腕、プロレスの腕、双方優れている。怪我などはしたことがない。

 華麗な小手返しで霧島の体勢を崩し、地面に倒してみせる澪に女生徒は「キャー! 」と悦びの声をあげる。ここでトドメを刺さず、さっと離れる澪。

 「立ち上がって来いよっ! 霧島っ?! 」カッコよく挑発ポーズをとる澪。

この男前の発言に男女問わずクラスメイトは股間や胸を押さえて燃えまくりで萌えまくり。

男も女も濡らす罪なヤツである。


 霧島もわざとふらつきながら立ち上がり、指四の字を決められていた腕を振り上げ、ポーズをとる。

不死身の霧島アッピールに沸き立つ男子生徒。「それでこそ男だっ! 霧島! 抱いてっ!」

発言者は男性である。一瞬洒落にならないギャグが出なかったか? そう誰かが思う前に。


 「受けろっ! 霧島っ! 僕の新必殺技をっ! 」「ぐわぁあぁぁぁぁっぁっ!! 」

華麗な澪の技が霧島に炸裂。怪我をしないように派手に吹っ飛んで受身を取る霧島。沸き立つ群衆クラスメイトたち。

繰り返すが、本当にこの二人は仲が良い。

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