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「このマンション、出るからな」
和代は潤子に冷たい目を向けた。
「やだッ! 憧れのカッコいいマンション、離れたくないっ! 」
「まぁ『掃除』は楽だけどな」
和代はため息をついた。和代の好みは三畳アパートだ。畳と共同炊事場とか最高だ。
ぼっとん便所の掃除当番とか余裕だ。
誰かが餌付けした猫たちがニャアニャアアパートを埋め尽くしているならもうそれだけで幸せだ。
……見た目はお嬢様だが、嗜好は完全な貧乏人である。ナンバー1なのに。
「全部ガラスとか、最高にカッコいいじゃないっ?! 」
そしてホテル直送のクロワッサンをかじりつつ、アールグレイをすすり、
カッコよさで選んだオールスケルトンデザインの和代のノートでなろう投稿である。
潤子の嗜好は「カッコよさ重視」だった。和代とは完全に異なる。
「……いや、隣スケスケだし、男だし、あたしらガン見されるし」
チラと隣の男を見る。……男はさっと視線を逸らした。
和代は露出度の少ない白い服を好む。それが逆にカッコよさと色気になっている。
露出度の高い服装を好む潤子とは好対照だ。ついでにいうと体型も。
「だって、だって、私が手首切っても、畳とちがって掃除簡単だよっ?!! 」
「だから、手首切る前提で話するなああああああああああっっ??!!!」 「いだいいだいいだい~!!? 」
こんな二人だが、仲はよい。
さてさて。
「……で、人のノートでHTML弄ってお店のホームページつくりのアルバイトの他にこんなのもやってるのか? 」
和代はパソコンは門外漢なので、潤子に選んでもらっている。
そうしたらスケスケの重たいスケルトンカラーの某リンゴのノートを購入されてしまった。
「うん♪ 」
完結した歴史小説の数、6以上。潤子は歴女だったりする。
中学の頃から日本史、世界史問わず歴史の授業は100点だった。音楽は……察してください。
「で。コレが一位? 」「うん……」
和代は門外漢なので、小説家になろうの歴史部門の一位が凄いのかそうでないのかイマイチわからない。
「よし、今日はシャンパンだね! 」
お前等、未成年だぞ?
……。
……。
「……私は、悲劇が書きたいのにぃ??! (な)んでこんなのがぁああああっ???! 」
「あ~もう?!! 一番ならそれでいいじゃねぇか? お前今まで一番なんてなったことないじゃん?! 」
「歴史の授業は一番だったよ~~~~! 」「はいはい。あたしゃ全科目100点だったけどねぇ? 」
「うえええええん! カズちゃんがバカにする~??! 」「してないしてない。あと、この教科書のラクガキ。……わざわざ書店で教科書買ってきたの? 」
頷く潤子。ニヤける和代。
潤子の快挙を肴に飲む和代だが、この部屋にある異物には敏感だった。
(高校二年生かぁ…… あ~あ。私たちもマトモならそうだったろうに)
そう思いながら、パラパラと何気なく教科書をめくる和代。
「ぶっ?! なにこのラクガキ?! 」「見るな~??! 」
「あははっ? 最高っ! あたしが更に追記してやろうっ?! 」「あっ? 私も~??! 」
仲良く教科書にラクガキをする高校生になれなかった娘と高校二年生になれなかった少女。
二人の怨念のこもったラクガキは、後に更にパワーアップした挿絵として大好評を得ることになる。




