『MARCH(マーチ)』
――― はるか未来か過去か。この世界か他所の世界か。
ヒーローの名を称えることが出来なくなった世界があった。
其の名を応援できぬ世界があった。この物語は声無き者達の魂の歌である ―――
少年はある日、唐突にヒーローの力を得た。
彼が真っ先にやった行動はいじめっ子を半殺しにすることだった。
彼を叱る親を殴り飛ばし、一人ビルの上から街を見下ろす。
――― 幸せそうにしやがって。皆死んでしまえ ―――
そう思って彼は巨大な身体になろうとした。
その時。
天は裂け、海は割れ、巨大な魔物が現れた。
最後のヒーローの生き残りを殺すために彼らは現れた。
称えられる言葉を、名をを失い、弱体化したヒーローたちは次々と魔物たちに討たれた。
最後の一人は逃げた。ただ、逃げた。ヒーローの誇りを失い。逃げた。
悪態をつく少年。この世界をも巻き込んだことを謝罪するヒーロー。
二人は一つになり、魔物たちに立ち向かう。
「別に、てめぇのためじゃねぇ! こいつらがムカつくんだっ! 」
「称える名を失った貴様に負ける我らではないっ! 」
絶対絶命の少年とヒーローの耳に、瞳に。
沢山の人たちが送る彼らへの応援の声と、暖かい音楽が流れる。
言葉ではなく、音楽で彼らは応援を受け、はじめの魔物を討つ。
ここに。『マーチ』の戦いが始まった。
――― おおおおおおおおっっ??!!!!!! ―――
病院の皆は歓喜している。
「良い第一話だったぜっ?! 」「婆さんの三味線よかったぜっ! 」「ぼくのパンチが怪獣倒したのっ! 」「次っ! 次っ! マジ頼むぜっ?!! 」
喉頭ガンに冒された老人は声が出せない。代わりに楽しそうにギターを軽くかき鳴らした。
ははは。美幸は笑っていたが、最近調子が真面目にヤバい。
主治医からそろそろ脚本を降りろと指示が出ている。あと、2話。2話だけ頼む。
壊れた飛行機を丹念に作り直す子供たち。最近ノリ不要に改善された。
汚れをつけていく老人たちもなれたものだ。時々別の意味の汚物がつくのも御愛嬌。そのまま使う。
これは美幸たちの切望だった。
……排泄を自分の意思で行えないことがどれほど尊厳を傷つけるか。
それは、そういう経験がないと分からない。だから、美幸はあえてソレを積極的にネタに使った。
画像は可能な限りそのまま使った(修正必要な部分のほうが多かったが)。
患者の皆に排泄に前向きになってほしい配慮であった。
カレーを食ってスプーンを掲げて変身。たまにカレーが『別物』に。
空を飛ぶときはヒラメのように平たくなってスカイフィッシュのようにウネウネ飛ぶので子供は泣き、大人は大笑い。
地球の反対側の怪獣を討つためには、どんなに頑張ってもマッハ2程度では間に合わない。
しかし、『マーチ』の巨体を維持するための食事量、排泄速度は並ではない。
超高速で排泄物を噴出して地球を一瞬で反転して敵を討つ。
「おじいちゃん。おじいちゃんのウン●が怪獣を倒したよ」とか、
「あはは。ざまぁ! ぼくのおしっこが役にたったねっ! 」とか皆喜んでいる。
映像班の義樹たちは半泣きだったが、実際の反応をみて苦笑いだ。
オープニングは患者たちの奏でる重厚なクラシック、
三味線や琵琶などとともに子供たちが作った紙で出来ているはずの戦闘機が次々と運ばれていき、
空に飛びたっていく。飛行機の回転は紐の伸縮で行っている。想像以上にカッコいい。
どうみても本物の飛行機以上だ。とてもチラシの裏で作ったとは思えない。
「今はコピー機とPCがあるからなっ! 」とはトクサツ屋の兄ちゃんの弁。
巨大なヒーローが大地に舞い降りると元・紙芝居屋のオッサンが慣れた講談の技を披露。
「その時 舞い降りた 我らがヒーローッ! 」
「参上! 」
と彼は紙芝居を広げる。 紙芝居にヒーローの右横顔が大写し。
「解決!! 」
ヒーローの左横顔が大写し!
そして紙芝居の箱を笑いながら蹴っ飛ばすオッサン。
「称えよ! 名を叫べぬなら心と音楽でっ! 我らが『マーチ』!!!! 」
大写しになった画面に両手を振り上げてポーズをとるヒーロー(着ぐるみなし! )が瓦礫の大地に立ち、
巨大な魔物(こちらも着ぐるみなし! )に立ち向かうっ!
どうみてもチープなはずの絵は、重低音の格闘音と下からの巧みなアオリによって、巨大な存在同士の死闘になる。
『マーチ』のパンチが唸る。
……小さな子供の拳の一振り、老人の震える手。難病の子の震える指先。
それらが幾重にも重なって『怪獣』に決まる。そして、キック。
患者たちの想いのこもった幾重もの蹴りの映像が重なった。
其の一撃を受け、
フランケンシュタインの怪物に扮する『怪獣』の衣服が粉々に砕け、
股間に『海苔』、臀部に『自主規制』とかかれた紙を残して派手に吹き飛ぶっ!
大笑いする皆。苦笑いする『怪獣役』と其の妻(無事結婚しました)。
半身不随の老人が演出した華麗な蹴りは患者たちの想いのこもった映像とあいまって皆を沸かせる。
かの空手十段の若い頃は相手の膝の上に飛び乗って華麗な二段シャイニングウィザード連発でバッタバッタと無双していたそうだ。『マーチ』の蹴りもまた鮮やかそのもの。
『下半身』役の青年がニヤリと笑っている。彼もまた難病に犯されている。
今日も大うけだった。美幸は笑う。
はは。ざまぁ。入浴中の小谷野には悪いことしたけど。
(※作者註訳:事後承諾したとはいえ、犯罪です! )
「あと。一話」
もってくれ。薄れる意識で、美幸は最後の脚本を上げ……。
……で き た 。
……。
……ははっ……。
「……先生っ! 先生っ! 早くっ!! 早くきてくださいっ!!! 」
(……続く)




