六月(June)の行進曲(マーチ)
「まだか~♪ 」
「やかましいっ?!! 」
――― 少年脚本絶賛作成中 ―――
「まだかな まだかな~♪ 美幸ちゃんの、脚本まだかな~♪」
「どこの学●のおばちゃんだよっ! 」繰り返すが美幸の生まれた年には既にそのCMは流れていない。
大人たちはだいたいのストーリーを美幸と義樹から聞いて、
さっさと準備を済ませていることを二人は知らない。
あくまで、今回は小児科の子供たちがメインだ。
……嘗て、この病院に小谷野の友人のアイドルが突如来訪し、
慰問した挙句に一曲歌い、更に次の興行で使う衣装の作成協力を依頼した事件があった。
その後、子供たちの症状や病気に対する姿勢が飛躍的に向上した事例がなければこういうことは出来ない。
小谷野は一介の研修医にすぎないが、妙に顔が広い(物理的にも)。
「飛行機はこんなデザインでいいかな? 」ニコニコとプラモ(ガレージキット)好きの御兄さんが問う。
「最高っ! 」「クール!! 」執筆の手を止めてしまうほど出来がいい。
あっちでは数学者のお姉さんがその飛行機の展開図を作っている。
信じられないが、紙でこの飛行機を作ってしまうらしい。小児科の子でも作れるようにしている。
実際、隣では素敵な「おもちゃ」を手にした小児科の幼児たちが一所懸命ノリを片手に飛行機を作っている。
……幼児の作るものだから当然不細工だが、
そこは他の子が汚れをつけることで激しい戦闘を繰り返した飛行機のような姿になっていく。
割り箸をとりつけ、輪ゴムで飛ばす。
鮮やかに射出される紙の戦闘機に周囲が沸いた。
「……こんなの、ちゃんと戦闘機の発着になるの? 」
「なる! CGの所為で首になったが、俺はこの技術で食ってたからなっ! CGにはまけないぜ? 」
本当かよ? そう思ったが映画会社の人が言うのだからマジなんだろう。
向こうでは大工のオッサンと左官の兄ちゃんがセットつくりに忙しい。
「……カネは? 」思い切って疑問をぶつける二人。
「おれたちゃ癌だ。家族もいない」「……」
申し訳なくて涙が出た。そんな二人を慰める大人二人。
「最後の職人仕事だっ! むしろ光栄さっ!! 」
兄ちゃんが二人の背をパンパンと叩いた。其の手は少し震えていた。
「ああ。また紙のセットが壊れたな」小さな子が大泣きしている。
「ほれ、こうしたら……どうよ? 怪獣にやられたトコを直したように見えるだろ? 」
トクサツ技師のアンちゃんはそういって笑うと、「おめえの仕事のお陰だ」といってその子の頭を撫でた。
「ホラホラ、俺は手伝うだけだぞ? あくまでお前らの仕事なんだからな? 」
「うんっ! 」「うんっ! 」「はいっ! 」「おっちゃんだいすきっ! こやの先生のつぎにすきっ!」
「……おっちゃん。おっちゃん……俺、まだ50前…… 」
そういって彼は泣いていたが美幸は無視して脚本に戻った。
「次、マーチ! コヤーノ! 撮影だっ!」
撮影は激しい戦闘からになる。……ヒーロー・『マーチ』役の子の容態的に。
絶対ダメなはずなのだが、「動けるうちにヒーローをやりたい」と言う本人と家族の熱望により叶った。
ちなみに、車椅子なのでロクな演技が出来る状態ではない。筈だが。
「脚役を別に用意する」
言い切る青年。なんでも車椅子で演技して某バイクヒーローを演じた俳優の実例があるらしい。
「しょんべん」「ちがうの! 」「うん」
……謎の言語を連発する空手十段。
「うん」がOK。「しょんべん」が改善の余地アリ。「ちがうの! 」はリテイクになる。
……。
……。
「……手を、ゆっくりで良いから、思いっきり上げて」
その子は、指先だってろくに上げられない。でも、必死で指を上げた。
『マーチ』のパンチのシーンで、『マーチ』が悪い怪獣を倒す一撃の映像のために。
ぱたっ。そういう音すらたてず、手が下りる。
「よくやったね」微笑む看護婦さんにその子は満足げに微笑んだ。
「美幸っ! 何バカやってるのっ?! 病室に戻って!!? 」
ああ。親バレしたか。美幸と義樹は肩をすくめた。大人たちは親了承と思っていた。
「……」
美幸は、病室で親二人と腹を割って話した。
ほとんどこっちにこない両親は美幸の入院費のため身を削って働いていた。
美幸は親を恨んでいた事も、それが見当違いだったことも、昔の夢も、今の希望も。
彼のたった14年で生まれた思いを全て話しきった。
……撮影は続行になった。
……。
……。
「次のシーン! いきますっ! 」
その病院に、子供たちの声が、大人たちの歓声があがる。
今、大人になれない子の為に。子供に戻れない嘗ての子供のために。
傍らでは喉頭ガンで声帯を切除した子や老人が、楽器を叩いている。
叫べ其の名前を。
たとえ口に出せずとも心で叫べ。
希望をもたらす。ヒーローとともに。
死出に向かう其の名は。
『マーチ』




