退き帰しますか? その後ろは崖ですよ
「大人になる前にっ! 死んじゃうならっ! 『今』夢をかなえようぜっ!! 」
「俺の撮影と、お前の脚本っ! 最高のヒーローモノを撮るんだっ!!!!!!!! 」
……思わず感動して首を縦に振ってしまったが。
「……やめとけばよかった」「……うん」美幸と義樹。早くも挫折中。
「爆発とか」どうするんだよ。
「飛行機とか、CGとか」昔から日本の映画はCGがチャチイことで有名だ。
「怪獣とか、ヒーローとか」着ぐるみはカネがかかるぞ。
早くも二人の夢は暗礁にぶち当たっていた。
「昔の人はフィルムだったから更にカネかかったらしいけどな」特殊な処理はほぼ手作業だしな。
「小谷野に怪獣役を頼もう」
とんでもないことをいう義樹。確かに凄い見た目だが。
「あれはフランケンであって、怪獣じゃねぇ」
……実はデカイ身体のわりに存在感が薄い小谷野は、彼ら二人の後ろに立っていた。
内心、泣いていたが、彼は子供の前では絶対泣かない。まして私事では。
(前回は美幸が押しかけたから彼の貴重な泣き姿を見れたのである。医者は患者の前では泣かない)
「…… ……」(たぶん、抗議? でも表情は優しい。あ。でも顔は凶悪だぞ? )
何か言っているのだが、当然ながら、二人の耳には入らない。
「トランポリンとかどうする? 」「たしかリハビリ室にあった」どうやって許可取るんだよ。
美幸は小児病棟の患者の中では比較的症状が軽く、多少病院内を歩き回っても大丈夫だ。
ナースセンターに一言言ってからでないと騒ぎになるけど。
「…… ……」
「なぁ。なんか暗くね? 」「さぁ? 六月だから、また曇り空なんだろ? 」
「か……ん。 さ……ん」(作者註訳。「川島君。里中君」と言っている)
「ぎゃああああああああ! フランケンっ!?? 」「うひゃあああっ??! 」
「(なにするんだよ! 脅かすなっ!)」
「(ごめんね。話に割り込んで)」「(まじ、びびった)」
美幸や義樹に手話が出来る特技があるのは別段小谷野のためではない。
二人の小学生時代の教師がアカ野郎だった。それだけだ。
アカには子供に自由にモノを教える時間をやってはいけない。
もっとも、現在役にたっているのだから悪くはない。主に授業中の雑談に使うために習得したけど。
……よくよく考えたら手話が判るだけで小谷野との意思疎通には問題はないのだが何故か手話で話しかける二人。
「(ヒーローモノの撮影やってるんだって?! たのしそうだねっ! )」
「(小谷野先生ってこんな愛想よかったっけ)」「(コイツは元からそうだぞ? )」
シャイすぎるだけだ。むしろ文章を書かせると良いものを書く。
「(普段の言動とギャップありすぎなんだが)」「(ごめんごめん 里中君♪ 脅かしちゃったみたいで)」
「(この数ヶ月で一番驚かせられた)」義樹は酷いことを言う。
まぁ、理解できるが。
「(……ちゃんさ)」「(それ以上義樹に変なこと吹き込むなよ)」
美幸は必死で小谷野に自重を促したが、小谷野は出来た小児科医なので余計な心配である。
「(まぁ、惚れた女の最後の頼みだからなぁ)」
ぴたっ。小谷野と美幸の手が。止まった。
「童貞卒業しそびれた」
「アホかっ!!!! 」「…… ……」
堂々と胸を張る義樹に呆れる二人。
「やっぱり神様なんていなかったんだね」
「俺たちは未成年だっ! なんで大昔のエロゲネタがわかるっ! 」
お前もな。発売日は2006年で当時お前らは8歳だ。
ちなみに欝系ネタ画像として有名なので、画像だけなら見る人は見ている。
「御父さん。お母さん。ぼくらは卒業します。先生。首斬って~♪ 」
「後●寿庵かよっ! 」
美幸よ。その漫画は一部では有名だが。18禁だぞ。
ちなみに、子供バレしている上に、該当漫画スレでは本人降臨している。
美幸が知っていてもおかしくはないが、どれだけネット依存症なんだ。美幸。
「エロゲもエロ漫画も18歳になってからにしろよ」
「……お前、殺すぞ」義樹に本気の殺意を見せる美幸。
美幸はたぶん、もって17歳。大人になる前に死ぬ。
「ぱふっ 」
二人の間に何故かアルパカのデカイぬいぐるみが出現した。
「……」「……」
小谷野の手品だ。最近其の腕が神がかってきた。
「いつ、仕込んだ」
「(昨日? )」「……カタズケロ。今スグダ」
「……あの先生、マジスゲーな」
……膨大な手品のネタを手にすごすご去っていく小谷野を見ながら里中義樹少年は感心していた。
小児病棟で不謹慎発言連発するお前もだ。美幸はそう思ったが、そういう彼を彼女は愛した。
中学生で愛とか恋とかバカらしい。皮肉屋の美幸はそう言っていたがたぶん彼は異性を愛することを知らずに死ぬのだろう。
「ああああああああああっ???!! 」
「ん???」
「思い出したらムカつくっっ!!!!!!」
例の憧れの看護婦さんのことだ。
「怒鳴り散らすのは身体に悪いぞ。美幸」
「……半分は貴様のせいだっ??!」
ほんと、患者に優しくない、優しい身内である。
「よっ? 元気? 」
本人が来てしまったので慌てて顔を背ける美幸。
「おおおお。相変わらず美人っすねぇ」と中学生にしては上手な口説き文句を言う義樹。
ちなみに、義樹はバカなので素直な感想である。バカは得だ。
「ふふふ……。特撮やってるんだって? 」『トクサツ? 』
実は二人ともトクサツという言葉を知らない。暗殺の一種か?
「特殊撮影技術! カッコいいよねぇ。蜘蛛人間なヒーローとか」
そのヒーロー。地味に今回の削除騒動のアレよりヤバいので辞めて欲しい。作者的に。
先鋒・レオパ●ドンいきますっ! とか絶対言うな。約束だぞっ!
「……心当たりあるんだけど」「マジ? 」「マジ? 」
「大マジ。ここって何処だと思う? 」「病院」「牢獄」
素直に病院と答えた義樹と、皮肉で答えた美幸。
「特に怖い怖い看護婦とフランケンがヤバい」
美幸がそういうので、その看護婦は張り付いた笑みをもったまま美幸にキスするほどの勢いで顔を近づける。
「……すいません」「わかれば宜しい」
実は妊婦とは思えない迫力と元気の良さだ。
「えっと、リハビリ室にいる半身不随の方知ってる? 」
ああ、ションベンとしか話さないオッサンだな。
「あの人、空手十段」それ、なんてギャグ?
「内科にいるおじいさんは役者」
「外科のオジさんは元映画会社勤務」ツラツラと話す彼女に二人は慌てる。
『患者のプライバシーを侵害するなっ!?? 』
彼女はニッコリ微笑んだ。
「手伝ってくれるって。でもメインは君達。やれる? 」
二人は、首を縦に振った。
其の様子を壁に隠れて(←いるつもり)みているバカでかい影に苦笑いしながら。




