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Review(レヴュー)!  作者: 鴉野 兄貴
くじけそうになっている男の子
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Review! 希望を生み出すもの プロローグ

 「『希望を生み出すもの。更新しましたっ! 』っと」

水鏡みかがみみおは活動報告を書き上げ、肩の力を抜いた。

誤字脱字の訂正。考証もしっかり考えたし、調べ物もしている。

話だって面白いはずだ。アクセス解析を見る澪。


 「よっし! 書き始めてから500PVいったぞっ! 」

現在、十話目の更新となる。十話まとめても今までに千人に満たない人間しか閲覧していないであろう。

そう。『千人に満たない』のである。


 2012年の現在において、素人作家たちを取り巻く状況は大きく変わった。インターネットおよび小説を扱う大規模コミュニティの誕生である。

 今まで限られた友人や家族にしか見せられることがなく、多くは机の上で眠る運命だった素人小説はWebと言う翼を得た。インターネット初期は個人で行う創作活動の一環でしかなく、作家同士の繋がりも限られたものだったが、それらを一括し、無料で発表と交流、一括で閲覧できる場所を提供し、広告収入を得ようとする企業が次々と誕生。良質な二次創作を求める読者や作品をより多くの人間に見てもらい作者たちを飲み込み、一昔前に流行ったホームページ形式やブログ形式を圧倒。現在に至る。

「小説家になろう! 」もまたそういった小説コミュニティのサイトの一つである。澪はその利用者の一人であった。


 「小説家になろう! 」をはじめて数ヶ月。

澪は始めは上位を必ず狙えると信じていた。

内容には自信があるからだ。


 しかし、現実はそう甘くはない。

何故だか判らないが、全然閲覧者が増えないのだ。


 上位は本当に凄い。はじめてみると其の凄さが判った。

更新せずとも五段階評価のP(ポイント)やお気に入りが増える。増える。増えるのだ。


 一方、澪の作品。

このサイトではトップに更新済みの連載小説として毎日澪の作品は載っているのに。

閲覧者は増えていない。


 字を詰めているとネット小説は読みにくいとか、一話2000文字くらいで小分けにしろとか、行頭は開けろとか。?や!などの間はあけろとか、三点リーダーは二つつけろとか、

 『活動報告』を書け、宣伝をしろ、ツイッターでつぶやけ。HP(ホームページ)やブログで宣伝しろ。タグを増やせ。

色々出来そうなことは皆試した。だが、無駄な努力だった。


 「つまんないのかな。俺の作品」

Pとは言わない。無理に『お気に入り』にして欲しいとも思わない。

感想がほしかった。つまらないならそういってほしかった。

 悲しかった。広い広い世界の中で、たくさん沢山。人がいるのに、誰もが自分をむいていない。

そんな気すらしていた。



 澪のような人間は実は珍しくは無い。少々長くなるのでこの部分は読み飛ばして頂いて構わない。

投稿作品は全て『新着の短編小説』『完結済みの連載小説』『更新済みの連載小説』として十分じゅっぷん以内に『小説家になろう! 』のトップページに表示されるが、これらはサイトデザイン上それぞれ十二枠、二十枠、十二枠のみの表示となる。投稿が集中するのを避けるために『予約投稿』という機能もあるがどうしても閲覧されない作品と言うのは不幸にも存在する。


 掲載した作品は不特定多数の読者が閲覧し、閲覧した人間の数が『ユニークアクセス』、閲覧した人々がその小説の頁を何回めくったかは『PV(ページビュー)』として『かささぎサーバー』にて算出され、

二時間おきのほぼリアルタイムで知ることが出来る。

読者は既に五段階評価でつけられた総合のP、今までのページビュー数、タグと言う名前のキーワードなどを参照に『面白い小説』を求めて彼ら素人作家の物語を『掘る』。

 『掘られた』作品たちはユニークアクセス数、PV数。そして『最後に更新された頁にしか存在しない』五段階評価欄にて評価され、あるいはお気に入り登録され、あるいは『しおり』に留められる。

 『しおり』は一人のユーザーにつき一つしか設定されず、また他人にその内容を知られることはない。もし他の作品を『しおり』に挟むならば今まで読んでいた作品は『しおり』から外さなければならない仕組みだ。

この問題を解決するには、まずその小説を『お気に入り』にすればよい。『お気に入り』にした小説や五段階評価をつけた小説はユーザー全てが持つ『マイページ』にて一般公開される。

 マイページには各ユーザーのために近況を一般公開で報告しあう『活動報告』、個別の『メッセージ』などの交流機能のほか、そのユーザーが五段階評価した作品や『お気に入り』にした作品を他人が参考にすることも可能である。

 『お気に入り』の意味は大きく、それだけで2Pの追加のPがつく。

他作の下段にその作品をお気に入り登録している人間の作品として紹介される確率が跳ね上がる。

友人が増えると共にまた作品も知名度が増えていく仕組みなのだ。澪のように人見知りするものには少々辛いかも知れない。


 さて、澪に視点を戻そう。


「2ちゃんねるに晒そうかな」即座にその考えを否定する澪。


 2ちゃんねるというのは日本国で最も巨大なインターネットコミュニティであり、

特色として匿名を前提として運営されている点が挙げられる。当然彼ら素人小説家を扱う場所もある。

 もし、あなたが自作を彼らに見せる(晒すと表現される)なら注意して欲しいことがある。

彼らは友人より、恋人より、他人より正直で残酷で率直だ。

 匿名ゆえ、無関係ゆえに。通常なら絶対に言わないような忌憚のない意見。

悪く言えば酷評、もっと悪く言えば誹謗中傷。そして良作には惜しみも無い讃美が与えられる。

 多くは目を覆いたくなる酷評。人によっては誹謗中傷と取れる意見を頂く事もあるかもしれない。

だが、それは無名かつ不特定多数の人々が時間と労力を費やして素人作家の書いた文章を見た結果である。

決して。決して。その意見は無視できない。百の讃美より一の酷評のほうが作品を輝かせることは多いのだ。

彼らの率直な意見に耳を通さないならば、決して上に這い上がることは出来ないであろう。


 とはいえ、その場で筆を折りたくなる酷評が多いのもまた事実なのだが。

澪よ。お前はプロを目指しているのだろう。プロはもっと厳しいことを常に言われるんだぞ。

プロの書く文章は商品なんだぞ。お前の書く文章で沢山の人の生活が変わるんだぞ。

 にちゃんねるの利用者。『2ちゃんねらー』達は素人作家に同じ小説を書くのが趣味な人間の立場と素人小説を読むのが好きな読者の視点で貴重な労力を裂いて優しく指導してくれているんだぞ。そうでなければ相手もしてくれないんだぞ。


 澪がこれほどまでに自作を『晒す』のを嫌がるのは理由があった。

『にちゃんねらー』と呼ばれる2ちゃんねるの使用者は人々は自作自演や信者と呼ばれる過剰な推薦者を嫌う傾向がある。


 2ちゃんねるには彼ら素人作家を扱うコミュニティがある事は先ほども述べた。

澪はここで良作を教えて欲しいという無名のユーザーたちに素直に更新をいつも楽しみにしている作品を述べた。


 それがいけなかった。

露骨な性描写と過激な内容。そして宣伝過多とされる作者の作品だったのだ。

密かに更新を楽しみにしていた作者は2ちゃんねらーにここぞとばかりに自演を疑われ、揶揄された。良作を推薦したつもりが、作者に迷惑をかけた事に気がついた澪は必死で作者の擁護に務めたが匿名掲示板ゆえ作者自身の自作自演に見えてしまう。結果的に作者のマイページや作品の感想欄には誹謗中傷のメッセージがいくつも書かれることになってしまった。

 作者自身に事の経緯と謝罪を送ろうとした澪だが、それは叶わなかった。

自演による推薦を疑われて皮肉られた作者が「小説家になろう!」を退会したからである。

メッセージはユーザー同士しか使えず、また他の連絡先もなかった。


 ごめんなさい。ごめんなさい。

その日の澪は作者に向けて2chにひたすらその言葉を書き込んだ。

澪の謝罪は。逆に作者の自演と疑われ溢れるほどの匿名による誹謗中傷。

いわゆる炎上を助ける結果にしかならなかった。

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