邪悪霊と青年のはなし
『なりたくてなった、んじゃ…ない、』
頭の中に響く声は悲痛に感じるほど掠れ怒りがにじみ出ていた。
全て自分が悪かった、と一言で済む話だ。
「え、あれって…。」
「人じゃ、ねぇよな…。」
時折振り向いたり小声が飛ばすのは見えているからだ。尤も霊感が米粒しかない人にも見えてしまう位、自分が背負っているモノは強くて、怖くて、…寂しげなモノだ。悪霊の、しかも頗る性質が悪いモノを背負っている。
初めは単なる遊びから始まった。
巷で有名な心霊スポット巡り。死人が続出して廃病に追いやられた病院、原因不明の事件で一家虐殺が起きた館、深夜一人で渡ると下から足を引き摺り込まれる橋、とか色々。
その時は深く考えず浅墓で軽率な行動を取った事を悔やんで恨んでなかった。今は真逆だ…。
如何して馬鹿な事をしたのかって後悔しまくり。…後の祭りもいいところさ。
悪友と巡った心霊スポットで自分はまんまとお持ち帰りしてしまった。とは言ったがこういう事は日常茶飯事で慣れたもんだった。悪友達は霊感0で、何故か自分は霊感有り体質。ってのがいけなかった。
自分は宛ら幽霊探知機。
ヤバさそうなら逃げて平気そうなら肝試しに発展する。自分も悪い気はせず、阿呆みたいにはしゃいでいた。
無論、其れに腹を立てた相手に憑かれる事も少なくない。だけど如何って事は無かった。お持ち帰り仕様が何されようが現実的な被害は被られなかったからだ。精々、血塗れの顔が急に出てくる位でな。
霊に憑かれても悪さされない体質だと、その時は思ってたので一人二人お持ち帰りして後日また違う場所に連れて行くというのが続いた。
偶に憑いていた霊が其処に留まる事もあった。別に気にする事じゃない。減ろうが増えようが関係ない。
悪友と馬鹿騒ぎ出来れば其れで良かった、良かった筈だった。
が、…運が悪かった、唯其れだけの事。
そして、自分が最も調子に乗っていてしっかり周りを見ていなかった、其れだけだ。
最後に訪れたのは一番ヤバいと評判の廃れ果てた神社だった。彼是、参拝する人や整備する人も長年いないのか建物も崩れ、雑草で荒れ放題。所謂、神様が捨てられたという言葉が異常に似合う。
その日は二体の霊を連れていた。一体は在り来りの長い黒髪女の霊、もう一体は足と手が無い赤ん坊の霊。そのどちらも自分の後ろに憑いており、歩く度に髪が揺れ声が響く。
当り前に悪友や他の人には見えない、聞こえない。寧ろ霊感がない奴に見えないのは普通であり、…霊感がない奴にも見えてしまうのはまさに異常だ。
だからこそ今目の前にいる人とも神とも言えない化け物を見て悪友は慌てふためいている。
「な、なんだよアレ!?」
「…さぁなっ。」
実際に自分でも分からないソレは漠然として途轍もなく”ヤバイ”ものだとは分かる。…現に自分に憑いていた霊達は怯え震え消え去ってしまったからだ。
其処からの記憶は曖昧だ。否、自分が第三者からの視点で見てる感覚になったが近い。逃惑う悪友に吹っ飛ばされた。そんな自分を気に掛ける事せず、悪友達はさっさと逃げてしまった。
取り残されたのは一人…、そんな相手を放って置く程、心優しい相手じゃない。近寄る化け物から逃げる為、後ろに下がるも昔はさぞ立派な御神木であったであろう立ち枯れた巨木に背中が当たる。
尋常じゃない汗が噴き出し、心臓は外に飛び出てしまう位に速く鼓動を刻む。
開ききった眼孔の奥を覗き込まれ、其処で一回記憶が飛んだ。
次に気が付いた時には何故か自宅のベッドの上。救急車で運ばれたとかの形跡はない。
「あれは夢…?」
じゃなければ此の静寂さは可笑しい。
ブルルッ
頭の中がこんがらがってる時に鳴る携帯のバイブ音。発信者は真っ先に逃げた悪友の一人。電話に出てさっきの話をすればきっと
『夢でもみたんじゃねーのw』
とからかわれるに違いない。根拠の無い自信が込み上がる。
切れない内に携帯に手を伸ばし通話ボタンを押せば馴染の声が聞こえる。が、殆どの声は頭の中に入っては来なかった。
『おい!大丈夫だったか!?あれから、…もしもし!もしも、』
通話は切れていない、自分の耳に声が届かなくなっただけ。自室にある姿見越しに見た自分の背中に佇むモノを見て震えが止まらなくなった。
かみ合わせが合わず歯がカチカチ鳴り、携帯を掴んでいる手もじっとり汗が滲む。
『きこえっ――ツーツー』
ボタンを押したのは自分ではない。振り返るまでも無く浅黒く濁った色の指が視界端で見えた。途端、体が硬直し動けなくなった。俗に言う金縛り、面白いことに頭の中は冷静に判断していた。
そして、自分の意志と関係なく振り向こうとする顔。錆びついた秒針が動くように振り返れば見えた、見てしまった。白眼は赤く充血し、黒眼は黒の変わりに金色に光っていた。見えたのは眼だけで他の部分は何故か頭の中に入ってこない。
軽い過呼吸に陥ってるのか息が苦しい、吸うのが辛い。頭痛が酷い、吐き気もしてきた。
吐き気を止めようとする手は動かない、変わりに先ほど見た浅黒く濁った色の手が頬に伸びてきた。触れた瞬間、恐ろしい位に冷たく、一瞬氷でも当てられたのかと錯覚する位だ。強張るのも出来ず、只管冷たさと吐き気と恐怖に耐える他ない。
だけど不思議な事に気持ち悪さは落ち着き始め、何故か睡魔が襲ってくる。
このまま寝ればさようなら此の世、こんにちは彼の世。
みたいな感じだと身構えて寝てしまったが、何ら変わりなく目覚める事になった。
起きて直ぐ体全体及び身の周りを確認するも異常は見当たらない。安堵の息を吐き出してベタつく体を洗うのも兼ねて風呂場に向い、リフレッシュをしようと腰を上げ。
不意に姿見を見た瞬間、体が凍りついた。
金縛りではない、入ってきた情報に頭の整理が追いついてこない、唯其れだけだ。
最低自分の体の約三個分の大きさの化け物が背中に纏わり付くように…憑いていた。夢ではない、夢なら良かったという幻想は打ち砕かれた。
其れ以降、自分は背中に化け物を背負いながら日常生活を面白い事に何事も無く過ごしていた。呪いや祟りを受けた事も無い、周りの人物を不幸にしたことすらない。平穏に過ごせていた。…問題があるとすれば力自体が強大な所為で矢鱈人に見られてしまうこと。だからと言って問題が起きたわけでもないさ。
唯、此の化け物が自分に憑いて以来他の霊は憑かないし、明らかにいる場所に行っても隠れ怯え前に出て来なくなってしまった。
お陰で悪友との縁はぷっつり途切れ、他の友人達も悪友から広がった噂のお陰で誰も寄り付かない。不幸中の幸いは家族誰一人自分が背負っている化け物に気付きもしなければ、見えてもいないという事。
軽く孤立状態になっているのかというのには不思議がっているものの自分を拒絶、隔離、離れるというのは無かった。普通に接してくれる事がこんなにも有り難いことだと此の歳で悟るとは思わなかったが。
そして、今日も一人で学校に向かう。背に背負う化け物に多少意識を向けるも極力無視する化け物を背負って学校に向かう。
此処までくれば特に気にはしない。何故ならば苛めという苛めは起きないからだ。もし、苛めでもすればしっぺ返しが来るのでは、と思っているに違いない。
「其れは良かったけど、…此れは如何にかならないものか、はぁ。」
日課になっていた捨て猫の餌やりが見事に威嚇のオンパレード。近付く事は最早不可能。
上手く捕まえ撫でた日には猫が痙攣を起し気絶する始末。
もふもふ猫ライフが味わえなくなった事は頗る悲しかった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
この作品は別の投稿サイトに投稿していた作品を修正したものになります。はじめましての方は、はじめまして。この文章どこかで…って思った方引き続きよろしくお願いいたします。
では、異種間恋愛が三度の飯より大好き担々狸の作品今後ともどうぞごひいきに。




