春臣:春名さんの手は、とても小さいです。
「春臣、大丈夫だった!?」
「はい、大丈夫ですよ。春名さん、手は平気ですか?」
「……ちょっと痛い」
「無理をしてはいけませんよ? 大きなけがをしたのですから」
うん、と頷いてくれました。
「それと、確かに彼はとても不愉快だったのですが、電車とホームの間は危険なので注意しなくてはいけません」
「わかってるもん。ここの駅ホームと電車の間狭いし、だから……でも、一応その事も考えたから、変なところに落ちないよう、全力で押したんだもん」
ほっぺたを膨らませながら経過を語る春名さん。
確かに、軽く、ではなく思い切り彼を押していました。
不意を突いたとはいえ、小柄な春名さんが彼を追い出せたのは、勢いと全力だったからでしょう。
僕もどうしようか迷っていたので、ありがたかったのは事実です。
それを伝えると、得意そうに笑顔を見せてくれました。
「でも、ちょっと酷い事しちゃったかな」
「彼は僕に離せと言っていました。恐らく、ここで降りたかったんでしょう。ですから、春名さんは酷い事なんて何もしていません」
「ほんと?」
「はい」
「良かった」
にっこり笑う春名さん。
やっぱり、可愛いなと思います。
僕が最初からもう少し気をつけていれば、春名さんに嫌な思いさせる事も無かったと思います。
ここはしっかりと反省しなくてはいけないのですが、春名さんの笑顔が可愛くて、思わず僕の頬も緩んでしまいました。
「春臣って握力、強いんだね。あの人、春臣につかまれて動けなくなってた」
「大変混雑していたので、暴れられては周囲の方にも迷惑をかけてしまいますから」
「あたし、握力あんまりない……」
「では、何か持つときは僕が持ちましょうね」
手を広げて見せると、びっくりしたような顔をして僕の手をじっと見ています。
「どうかしましたか?」
「春臣の手、大きいね」
「そう──ですか?」
「うん、だってほら、あたしの手よりずっとずっと大きい」
ふわりと春名さんが手を重ねてくれました。
僕よりも、ずっとずっと小さい手。
細くて、柔らかくて、温かいです。
こんなに小さな手で、小さな体で、さっきあの彼に立ち向かったのだと思うと胸が苦しくなります。
僕からすれば小さく見えても、春名さんから見れば、自分よりも大きな男です。
そんな相手にすごまれたのは、どれほど恐ろしかったことでしょう。
思わず、重ねた手を握ると、春名さんの顔が赤くなりました。
「──っ、で、でもっ」
「はい」
「春臣は結構、落ち着いてる、よねっ」
目線を合わせないまま、春名さんが少しつっけんどんに言います。
僕は、もうわかっています。
こういう時は、とても照れている時なんです。
電車がまたカーブを走っているようで、ぐらりと傾きました。
春名さんが僕の方に揺れた弾みに、ふわりといい香りがします。
その後、一瞬メントールのような香りがして、湿布薬をつけているのだと気付きました。
きっとその匂いを隠すのに、何か香水をつけているのでしょうか。




