春臣:騒ぎを起こし、申し訳なく思います。
「大体なんだよその荷物。混んでるのに迷惑だろーが。杖つかなきゃ歩けないなら電車乗んなよ貧乏人」
途端、春名さんの体が、さらに強張りました。
──いえ、僕の腕かもしれません。
「迷惑をおかけします。大変申し訳ありません」
「わかればいいんだよバカ」
「いえ、今の謝罪はあなたにではありません」
「は?」
「不快な思いをさせてしまっている、同じ乗車中の方々です」
「訳わかんねえよカス。調子乗ってんじゃねえよ」
そう言って、彼が僕の腕を殴りました。
大変混雑しているので、彼の腕が周りの人にもぶつかっているかもしれません。
これ以上暴れられては、間違いなく迷惑になるでしょう。
「すみません」
もう一度、周りの人に小さく謝ると、彼の腕をつかみました。
「何すんだよ!」
そのまま指先に力を込め、動きを封じます。
彼が反対側の手を振り上げようとしたので、そちらも封じさせていただきました。
「動かないで下さい。これ以上動いたり騒いだりすれば、さらに力を込めます」
「なんだと……っ! ──てぇっ!」
あっさり大声をあげたので、力を込めさせていただきました。
丁度そこでアナウンスが流れ、もうじき駅に着くことを知らせてくれます。
僕達が下りようと思っているのは、もう少し先の駅です。
どうしようかと迷っていると、春名さんが僕の胸を軽く叩きました。
彼の肩を掴んだまま春名さんを振り返りますが、ほんの少し唇を尖らせたままで、言葉は出ません。
「どうしました?」
尋ねると、春名さんはゆっくりと口を開きます。
そこで丁度電車が止まり、ドアが開きました。
どうやらこの入り口から乗り降りする人は居ないようです。
少し離れたところのドアから、数名降りていくのが視界の隅に入りました。
騒いでしまい、ここから降りにくくさせてしまった事を申し訳なく思います。
「離せって言ってんだよ!」
彼が僕の足を蹴り、怒鳴ります。
「春臣、離して」
春名さんに唐突に言われ、思わず返事より先に手を離しました。
──その、途端。
「あんたのほうがバカよ、バカバカバカ!」
春名さんがそう言って、僕の前に立つと、彼を勢い良く両手でドアから追い出しました。
思いがけない攻撃だったのでしょう、彼はホームに降り立って、そのまま尻餅をついています。
「──なっ、なんだよ!」
立ち上がってドアに手を伸ばそうとするのが見えました。
春名さんに見えないよう、後ろから手を上げて見せると、一瞬彼の動きが止まります。
そして、ベルが鳴って、ドアが閉まりました。
「いーだ!」
彼に向かってそんな事を言う春名さんに、思わず笑ってしまいます。
7割ほどの乗客が降りたので、座席も幾つか開きました。
なので、すぐ側の座席に二人で座ります。




