春臣:とても、不快です。
「どうか、した?」
「いえ、大丈夫ですよ」
心配そうに春名さんが僕を見上げます。
丁度僕が壁になるので、先程の音は聞こえなかったのでしょう。
余計な心配をかけたくは無いので、良かったと思います。
なら、よかった、と小さく春名さんが言うのに頷くと、ドアが閉まりました。
さらにその反動で強く押されるのを感じます。
──そしてまた、舌打ちをする音も、聞こえました。
どうしようかと一瞬迷った途端、
「つめろよバカ」
と、斜め後ろから聞こえました。
春名さんがびくっとして顔を上げます。
声が大きかったので、聞こえてしまったのでしょう。
「僕ですか?」
「混んでるんだから周りの迷惑考えろよ、ボケ」
振り返るや否や、そう言われてしまいました。
「な、何よっ!?」
「春名さん」
春名さんが抗議の声をあげました。
それを止めようとした途端、また後ろから声がします。
「人居たんだ? ちっちぇー。そんじゃ見えねえわ」
胸元の春名さんが、体を固くします。
ぐっと唇を噛むのがわかりました。
彼は、春名さんが僕の影に隠れて見えなかったために、もっと詰められるのではないかと思ったのでしょう。
そうだとしても、勘違いをしたのは彼で、春名さんが辱められるいわれはありません。
「大体、ちっちぇーやつって邪魔なんだよな」
右手で春名さんの肩を抱くようにすると、その肩が震えているのを感じます。
とても不愉快です。
「──あなたも、僕から見たら、"ちっちぇー"ですが?」
彼の身長は僕の口元よりも、少し下ほどでしょう。
髪を盛り上げているので若干水増しはされていますが。
「あ? でけぇからっていい気になんなよ。迷惑なんだよ」
「あなたの声の大きさも迷惑です。これだけ人が居る中での騒ぎですから」
「ごちゃごちゃうるせえな」
「人と会話する時位、その耳元の物を外してはいかがですか。先程から音が漏れていて不快です」
「持ってないからひがんでんだろ。タダで音聞かせてやってんだよこっちは」
大抵音漏れだなんだ言うヤツは、自分じゃこういうの買えないからひがんでるんだよ、と彼が続けました。
自分の声の音量がわかっていないのか、意図的なのかわかりませんが、結構な大声です。
どちらにしても彼の言い分は、あまりにも勝手ではないでしょうか。
ですが、さらに言い返したところでますますうるさくなるだけでしょう。
これ以上春名さんの耳に不愉快な言葉を聞かせたくありません。
周りの方にも、これ以上の迷惑は──




