春臣:予想外でした。
「春名さん、大丈夫ですか?」
「うん」
思った以上に、電車が混んでいます。
夏休みなので学生が多いのは仕方ないのですが、この混雑は予想外でした。
普段はこれほどではないので、何かのイベントでもあるのでしょうか?
だとすれば、予想されるのは割と開けている、二駅先です。
なので、その辺りで大分空くと思うのですが……
「春臣は、大丈夫?」
「はい」
カーブで、少し電車が傾きます。
大変混雑しているので、ほんの少しの揺れでも、周りから押される感じがします。
できれば春名さんを座らせてあげたかったのですが、あまりの混雑にそれは叶いませんでした。
せめて人に押される事が無い様に、春名さんに壁際に立ってもらい、その前に僕が立たせてもらっています。
杖を前に抱えるようにしているのは、周囲の人の邪魔にならないようにという春名さんの配慮でしょう。
駅に着き、電車が止まります。
残念ながら降りる人は極僅かで、さらに多くの人が乗車してきました。
とは言え、すでにかなりの人が車内に居るので、新しく乗車してくる人もかなり大変そうです。
強く押されるのを背中に感じながら、出来る範囲で壁に寄ります。
これ以上寄っては春名さんが潰れてしまうと思い、体に力を入れ、姿勢を伸ばしたところで、後ろから小さく舌打ちをする音が聞こえました。
思わず振り返ると、僕と同じ位の年齢かと思われる男です。
音楽を聴いているのでしょう、その音が漏れ聞こえてくるので、舌打ちではなかったのかもしれません。
「すみません、大丈夫ですか?」
「うん、ありがと」
春名さんと完全に密着した状態なので、息苦しくは無いか心配だったのですが、大丈夫だと言ってくれました。
そこでまた、舌打ちする音が聞こえました。
今度は、しっかりと。
音漏れではないだろうと思いますが、振り返るべきか迷います。




