春臣:いつか春名さんを、家に招けたら。
もしかしたら、早く帰りたいと思われてしまったのかもしれません。
そんな事は断じてありません。
出来るならずっと春名さんと居たいと思っているんですから。
「ゆっくりしていたいのですが、夕方は電車が混んでしまうかもしれません」
なので、そう言いました。
実際夕方になればまた電車は混んでしまうでしょう。
来る時の様な事はそうは無いでしょうが、やはり空いている時に帰る方が何かと安心です。
「あ、そうだよね?」
「はい。欲を言うともっと春名さんと居たいんですけどね?」
「──あ、あたしもそうだけどっ」
その代わり明日、少し早めに待ち合わせしませんか? と言うと、嬉しそうに頷いてくれました。
待ち合わせ場所は今日と同じで言いかを尋ねようとした時、ウェイトレスさんが頼んだ物を持ってきてくれました。
湯気を立ててとても食欲をそそる香りが漂います。
まずは、一口食べてからの方がいいですね。
「──おいしっ」
「良かったです。こちらもとても美味しいですよ」
ぱあっと顔を明るくして嬉しそうに笑う、この笑顔がとても僕は好きです。
実際に料理を作った方がこういう反応を見る事が出来たら、さぞかし嬉しいのではないでしょうか。
「一口交換しよ?」
「はい」
二人で少しずつ取り皿に分け合いました。
春名さんが頼んだ物はカルボナーラで、僕が頼んだのはペスカトーレです。
沢山の貝やエビが乗っているので、殻から外して取り分けます。
「春臣、食べるの上手だね」
「そうですか? ありがとうございます」
「あたし貝外すのあんまり上手にできないの」
「ここをこうして、軽くまわすようにすると楽ですよ」
「やってみたい!」
春名さんの皿に、一つ貝を乗せます。
すると、真剣な表情をして僕が言った通りにフォークを使い始めました。
丁寧にぐるぐると回して──
「ほんとだ! できた!」
「キレイに取れましたね」
「うんっ! ありがと、じゃあこれ春臣にあげるね」
「ありがとうございます」
春名さんが、僕の皿に分けてくれました。
今まで難しくて頼めなかったんだけどこれからは大丈夫、と言うのを聞いて嬉しくなります。
春名さんの家では、余り魚介類のパスタは作らないそうです。
理由を尋ねてみると、お姉さんが貝を外す手間を嫌がるからだと教えてくれました。
「もし宜しかったら、今度僕の家に来ませんか?」
「春臣の家?」
「はい。一度夕食を食べに来て下さい」
実は、母がパスタやグラタンなどがとても好きで、週に一度は作ってくれるんです。
身内を褒めるのは何なのですが、なかなかの腕前だと思います。
春名さんが来て、一緒に食べてもらえたら、母もとても喜ぶのではないでしょうか。
「──って、いきなりお食事お呼ばれっ?」
「もちろんきちんと前もって話をしておきますよ?」
「で、でも、緊張するっ」
だってあたしあんまりキレイに食べられないし、と慌てる春名さん。
十分キレイだと思うし、何よりおいしそうに食べてくれる姿が、作り手冥利というやつではないかと思います。
そう伝えると、一瞬考え込む表情をして、口を開きました。
「女の子、連れて行ったこと──ある?」




