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新世界の創世者は、魔王ではなく?  作者: ニャンコ
第一章 本能寺の変
9/38

第二話 魔王、隠居す          其の三『光秀の想い』

本能寺の変

様々な考察がありますねー

黒幕は?

みたいな

ニャンコ的妄想は、こんな感じで表現してみました。もちろん、歴史的な考証との比較は、この場合ナンセンス。あくまで物語として読んで欲しいですっ


ではでは



 地底の空間は、静かだった。


 いや――静かに“させられている”

            と言うべきか。

 火の手も、悲鳴も、鉄の匂いも。

 さっきまで確かに本能寺にあったはずのものが、ここには一切届かない。


 異様なほどの隔絶。


 それが、

 余計に信長の胸の奥をざわつかせた。


   信長は、ひとつ息を吐く。

    短く、乾いた息。

     そして――問うた。

「……光秀は、どうなる?」


 その声には、怒りも憎しみもなかった。

むしろそれは、

すでに勝負が終わった後の者が、

盤上を眺めているような静けさだった。


 蘭丸――森長定は、

   無意識に背を強張らせた。

 坊丸もまた、笑みを消し、

  豪傑らしい眼差しで主君を見た。


 光秀。

 主君を討った謀反人。


 その名は、ここにいる者にとって刃であり、毒であり、火種である。

 触れれば必ず血が出る。


   だが力丸は、平然としていた。

「このままなら、秀吉殿に討たれます」


 まず、事実を置く。

 余計な情を混ぜぬ、冷えた声。


    蘭丸の喉が鳴った。

     坊丸の眉が、わずかに動く。

 「……討たれる、だと」


    坊丸が低く呟いた。

     その声音は怒りではなく、

      武士の責任感に近い。

「ならば、光秀殿は――逃げるか。

 いや、逃げられるのか」


 坊丸は、目上に礼を失さぬまま、しかし真正面から問うた。

 普段の「りっきゅん」だの、ふざけた節回しなど影もない。


    力丸は、坊丸の言葉を

   否定も肯定もせず、淡々と続けた。

「如何様にも」


 短い。あまりにも短い。


 それは「放っておく」という意味にも聞こえるし、

「救う」という意味にも聞こえる。


   蘭丸の背筋を冷たいものが走った。

(……この男は)

    どこまで見通している?

     どこまで、仕込んでいる?


    力丸は言う。

「光秀殿は――共犯者です」


 空気が一瞬、凍った。


 坊丸が目を見開く。

 蘭丸は息を呑む。

 錦之介は、まぶたを伏せるだけで、

          表情を動かさない。


    ただ信長だけが、

    ほんの少し口角を上げた。

「……ほう」


 その声は、楽しげだった。


    力丸は、続ける。

「光秀殿は、謀反へ傾いておられました。

 責任感ゆえに。しがらみゆえに。

 朝廷からの圧力もまた、

   無視できぬものだったのでしょう」


 言葉は淡々としている。

 だが、内容は――血の匂いがした。


    坊丸が、低く息を吐く。

「……朝廷が、光秀殿を?」


「押した、とまでは申せません。ですが」

   力丸は視線を落とし、

    ほんのわずかに首を傾けた。

「“このまま信長が天下を取っても、

          泰平に繋がらぬ”

 ――その疑念を、

  光秀殿は最後まで捨てきれなかった」


 蘭丸は、知らず拳を握りしめていた。

 その疑念が、どれほどの重さで胸を圧したのか――想像がつく。


 そして信長が、ふっと鼻で笑った。

 笑い、と言うには浅い。

  だが確かに――面白がっている。

「……朝廷、か」


   その言葉を噛むように呟くと、

  信長は力丸へ視線を投げた。

  鋭い眼光。だが、責める色はない。

  むしろ――試すような、

         探るような。

「お前は、何でも知っておるのだろう?」


 確信はない。

 かまをかけたに過ぎぬ問いだ。


 だが、その声は妙に軽い。

 重い盤面を前にしてなお、どこか遊び心が混ざる。


    力丸は、わずかに目を細めた。

「それは言わぬが花でありましょう」


 一拍。


「……何でもは知りません、

        知っていることだけ」


 その返しは、信長の胸の奥を――見事に撃ち抜いた。


「――っ」


 信長が喉の奥で、短く鳴らす。


 次の瞬間。


 口元が、緩む。

 目尻が、ほんのわずかに下がる。

それは、戦場で勝った時の笑みではない。


 もっと俗っぽい。


 まるで、

親父が放った渾身のダジャレに、

期待通りのツッコミが返ってきた瞬間。

「そうそう、それそれ!」

と内心でガッツポーズしている顔。


 ――それが、第六天魔王の顔だった。


 蘭丸は、思わず瞬きをした。

坊丸も、わずかに口を開けたまま固まる。


 信長は満足げに頷き、次の言葉を――前と一字一句違えずに吐いた。


「そうか。そうだな。やはり儂の目で見る。肌で感じなければの」


 そして、それを待っていたかのように、力丸もまた――同じく一字一句違えずに返す。


「感動は寿命の長さより大切だ。という言葉を聞いたことがあります」


    言い終えた瞬間。

    信長は、じわりと目を見開き

   ――そして、深く息を吐いた。

「……ふ、ふふ」


 笑いが漏れる。

 堪えきれぬ、というように。


「ははは……!」


 ついには声を上げて笑った。


「ははははははっ!」


 まるで、天下取りの重圧など何も背負っていない少年のように。

 いや、少年ですらない。


 ――気のいい“おじさん”だ。


 蘭丸は呆気に取られた。

 坊丸は困惑しながらも、

     口元だけがわずかに緩む。


 その笑いの中に、

     どこか安堵があったからだ。


(……ああ)


(主君は、いま――救われている)


 何に、救われているのか。

 それは分からない。


 だが確かに、

信長は“救われている顔”をしていた。


 その光景を見た瞬間。

蘭丸の胸の奥に、古い記憶が蘇る。

 父・可成と兄・可隆を亡くし、

 森家の子らが一夜にして背負った重圧。

泣くことも許されぬまま、

武士として立たねばならぬ現実。


 あの頃の自分たちを、潰さずに抱え込んでくれたのは――

 主君の、あの不可思議な包容力だった。

豪胆で、恐ろしくて、容赦がない。

 なのに、どこか温かい。

「魔王」と呼ばれながらも、

 人を生かすことを知っている男。


(あの時も……)


(こういう顔を、見た気がする)


 坊丸もまた、同じだった。

  ふざけて笑って、騒いで、

 それでも折れなかったのは――

あの包容力に、幾度も救われたからだ。


 そして、その輪の外に――ひとり。


 つきがいた。


 俯いたまま、ほとんど表情を見せぬ娘。

 だが、その視線だけは

 ――ほんのわずかに上がっていた。


 信長と力丸。

その二人の間に流れる、言葉にせぬ信頼。

その空気を、つきは羨むように見ていた。


(……羨ましいのか)

   蘭丸は直感する。

  そして同時に、理由も察してしまう。

 あの目は、ただの憧れではない。

 ――親に向けるべきだったものを、向けられなかった者の目だ。


   錦之介が、

   その空気を裂くように口を開いた。

「……いやはや」


   小さく、しかし妙に通る声。

    歌舞伎役者の口上のように、

     抑揚があるのに嫌味がない。

「まこと――

  世とは、因果なものでございますな」


 蘭丸は、錦之介の横顔を盗み見た。

 白髪混じりの髪、冴えぬ町人面。

 どこをどう見ても、冴えない店の主にしか見えぬ――のに。


 その眼だけが、違った。

 濁りがない。

 濁りがないのに、底が見えない。


(……この男)


 力丸が「錦之介殿」と呼ぶ理由が、

      少しずつ腹に落ちてくる。

 この男は、武で切る忍びではない。

 謀で人を殺す――その種の者だ。


 錦之介は、淡々と続けた。


「明智殿は……“人として正しき者”でございます」


 坊丸がわずかに眉を動かした。

 普段なら茶化すところだが、今は豪傑の顔のまま、口を挟まぬ。


「正しきがゆえに、迷い、

 迷うがゆえに、縛られる」


 錦之介は指先で空をなぞるように、

           言葉を整える。


「朝廷の威。

 家中のしがらみ。

 己の名分。

 ――そして、主君の圧倒的な器」


 その最後を言うときだけ、

  錦之介の視線が信長に向いた。


「……あまりに大きい器は、

 小さき者には“恐怖”にもなる」


 蘭丸は息を呑む。

 それは、光秀だけではない。

 織田の家中にいる者の多くが、

    薄々抱いていた感情だ。


 信長は、黙っていた。

 だがその沈黙は怒りではない。

 むしろ――「分かっている」と言わんばかりの静けさだった。


    力丸が、言葉を引き取る。

「光秀殿は、

最初から“助かろう”とはしておりません」


   その断言に、坊丸の目が細くなる。

「……最初から?」


「ええ」

 力丸は冷たくも熱くもない声で続けた。


「謀反は、武家の罪ではない。

 “天下の罪”です」


 蘭丸の胸が、きゅっと縮む。


 武家の罪――ならば家中で処理できる。

 だが天下の罪となれば、朝廷も、諸大名も、民も、歴史も――すべてが裁き手になる。


「光秀殿は、自ら“謀反人”の業を背負う覚悟を決めておられました」


 その瞬間。


 つきが、ほんのわずかに身じろぎした。

 俯いたまま。

 顔は見えない。


 だが、肩の線が僅かに強張った。

   (……つき)


 蘭丸は思う。

 この娘もまた、“業”という言葉に敏感なのだろうか。


    坊丸が、低い声で問う。

「……それは、つまり」


    力丸は、坊丸の言葉の先を

     奪うように告げた。

「誰かに討たれるまでが、己の役割。

 ――そう弁えておられる」


    坊丸が、奥歯を噛む音がした。

「……そんなもん……」


 言いかけて、止めた。

豪傑の坊丸が、感情を押し殺したのが分かる


“そんなもの”で済ませていい話ではない。

 だが、否定してしまえば――

光秀の覚悟を侮辱することになる。


    蘭丸は、喉が渇くのを感じた。

(謀反を起こし)

(主君を討った)

(その上で)

(己も討たれる覚悟

       をしている――?)


そんな覚悟を持てる男が、どれほどいる。

 蘭丸は武士だ。

       だからこそ分かる。


 それは卑怯ではない。

 逃げではない。

 むしろ――


(……武士として、完成してしまっている)


    信長が、ゆっくりと息を吐いた。

「……光秀め」


 怒りはない。

 嘲りもない。


 その声には――

   奇妙な、労わりが混ざっていた。


「真面目が過ぎるわ」

         たったそれだけ。


 だがその一言が、

光秀という男を正確に斬っていた。


   錦之介が、わずかに口元を歪めた。

   笑みの形だが、愉快ではない。

「真面目であればあるほど、

 “背負う”ことに意味を見出してしまう」


    力丸が頷く。

「……光秀殿は、己を犠牲にしてでも、

 世の形を変えようとしている」


    坊丸が、低く唸った。

「世を変える……だと?」


「ええ」

   力丸は淡々と――

      しかし、確信を込めて言う。

「信長様の夢を叶えるために」


 蘭丸は、その言葉の意味を反芻した。


(……光秀が、主君の夢を?)


 矛盾している。

 主君を討った男が、主君の夢を叶える。


 だが――


(矛盾ではない)


(それほどまでに、この方の夢は―)


  信長は、

  盤面を眺めるような静けさで言った。

「……儂は、光秀を嫌ぅてはおらぬ」


 蘭丸の心臓が跳ねた。

 坊丸もまた、目を見開く。

 その言葉は、戦国の常識を外れている。

 謀反人は憎むべきだ。

 討つべきだ。

 それが主君であり、武士の道である。

 だが信長は、魔王だった。

 常識に従わぬ男だった。


 そして力丸は――

その魔王の、さらに一歩先を読んでいる。


    力丸は、

   信長の問いに答えるように言った。

「……信長様」


 声が落ちる。

   その一言で、場の空気が締まった。

「光秀殿のことは――」


 蘭丸は息を止める。

 坊丸の喉が動く。

 つきは、俯いたまま微動だにしない。

 錦之介だけが、目を細めた。

 まるで答えを知っている者のように。


    力丸は、言い切った。

「如何様にも」


 短い。

 だが今度は、先ほどより重い。

この言葉の中に、

 殺すも、

    生かすも、

        逃がすも、

  あるいは“名を変えて生きる”も、

         すべて含まれている。

 そして同時に。


(信長様は……)

    蘭丸は悟る。

      (光秀を、生かしたいのだ)


 理由は分からない。

 だが、この場にいる全員が――

    同じ結論に辿り着いていた。

 坊丸も、錦之介も。

 そして俯いたままのつきでさえも。


 信長は、何も言わなかった。

ただ――ほんの僅かに、口角を上げた


 それは笑みではない。

 だが確かに、納得の色だった。


(……もう、手配は済んでいる)

    蘭丸は確信した。


 信長は、抜け穴を知らなかった。

だが、脱出の手立てがあることは知っていた


 つまり。

―この筋書きの裏には、力丸がいる。

そして、

その力丸と同じ場所に立っている者がいる。


 錦之介。


 今孔明とも謳われた忍びの頭脳が、

 この“謀反の結末”すら計算しているのだとしたら――


   蘭丸は背筋が寒くなるのを感じた。

(……これは)

 (本能寺の変ではない)

  (もっと大きな何かの―始まりだ)

    ここにいる者は皆、知っている。


 明智光秀という男が、

  どれほど愚直で、

  どれほど清廉で、

  どれほど不器用で――

  そして、責任感に殺されかねぬ男か。


 謀反人。

 裏切り者。


 世はそう呼ぶだろう。


 だが少なくとも、

この場の誰もが理解していた。


 光秀は、私怨で主君を討つ男ではない。

 栄達のために刃を向ける男でもない。


 ――“天下の大事”を為すために、

     自分の人生を燃やせる男だ。


 そして燃やし尽くした果てに、

  誰かに討たれることすら、

   自分の役割として受け入れる。


(……そういう男だ)

    蘭丸は、胸の奥で呟く。


    力丸が淡々と告げた言葉が、

        改めて骨身に染みる。

「このままなら、秀吉殿に討たれます」


    坊丸が低く息を吐く。

「……明智殿は、逃げぬだろうな」


「ええ」

    力丸は即答した。

「己の業を背負う覚悟が、既にあります」


 蘭丸の背筋が粟立つ。


 業。

 謀反人の業。


 それは歴史に残る汚名だ。

 子孫にまで絡みつく鎖だ。

それを――自分で引き受ける。


    坊丸の拳が、

     ゆっくりと握りしめられた。

「……だが」

   坊丸が、ぎり、と言葉を絞り出す。

「それで終わらせてよいのか」


 その問いは、武士の問いだった。

  正しさだけでは救えぬものがある。

   義だけでは守れぬものがある。


「光秀殿は」

「“明智光秀”としては、ここで終わります」


 蘭丸の心臓が跳ねた。

 坊丸も息を止める。


「――別人として、活きて頂きます」


 その一言に、空気が変わる。


 信長の肩が、ほんのわずかに落ちた。

 それは、安堵の兆しだった。

 だが信長はすぐには言葉を返さない。

 その沈黙が、

    この策の重さを物語っていた。


    力丸は続ける。

「必要な身分」

「必要な名」

「必要な行き先」


「……全て、用意がございます」


    錦之介が、ふっと笑った。

「はい。それらは既に」

「私が、済ませております」


 さらりと。


 まるで、

帳簿の支払いを終えたかのような口ぶり。


 だが――

 それがどれほどのことか、

    蘭丸にも坊丸にも分かる。

(この男……)

   (どれだけ前から動いていた)


    信長は、静かに息を吐いた。

「……そうか」


 それだけ。


 だが、その一言に宿る安堵は、

       誰の目にも明らかだった。


 信長は、光秀を生かしたい。

 この場の誰もが、もう疑わない。


    力丸は、最後に――

     “光秀その人”の姿を語った。

「光秀様は、最後に、こう申されました」

 

 力丸の回想


    光秀

「大殿を、信長様の事、

     くれぐれも頼みます」


 その時の光秀は、

力丸の手を取り涙ながらに懇願していた。

己では、

  今後仕える事も生きる事も叶わぬと。

 そして、直ぐに

天下の大事を為す漢の顔に戻り、

覚悟と哀愁を帯びた微笑みを湛えていた。




      つづく


いかがでしょう?

忠臣“光秀”として描いているつもり

なんですョ

能力があって、マジメで、努力家が

報われる社会でありますようにー


正しく生きた人

として、描きました。

の、つもりですっ

ホントのことは、わかりませんカラ


ではまた

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