第一話 本能寺の変 其の六『地底の艦』
えっ
信長が隠居?
驚きました?
魔王が、ご隠居様に
なっちゃうんですねー
諸国漫遊の旅に出るとか、
出ないとか
いったい何が?
地の底に広がる巨大な空間は、
まるで世界の裏側だった。
天も星もないのに、光がある。
松明ではない。行灯でもない。
炎の揺らぎとも違う、
淡い白光が、岩肌を静かに照らしていた。
光源が見えない。
なのに闇がない。
坊丸は、口を開けたまま固まっている。
「……暗くない……狭くない……」
先ほどまで抜け穴の闇に怯え、
「暗いよ〜狭いよ〜怖いよ〜」
と騒いでいた坊丸が、
今はただ呆然としている。
蘭丸――森長定は、
息を吸うのを忘れていた。
喉の奥が乾く。
目の前の光景が、
現実として脳に入ってこない。
それは、異様だった。
水路がある。
岩を削り、整えられた水の道。
水面は凪いでいて、波ひとつ立てず、
地底の灯りを鈍く映す。
そして――その水路の奥。
“それ”は、そこにあった。
いや一つではない。
三つ。
同じ姿をした船が、三隻。
まるで眠る獣が並んでいるように、
静かに水面へ影を落としていた。
関船。
そう呼ぶべき姿をしている。
だが、明らかに違う。
船体は木造が多い。
鉄が貴重な時代に合わせたのか、装甲のような部分にのみ鉄が使われている。
しかし、その構造は――
武士の知る船の理屈から外れていた。
艪がある。帆もある。
それだけなら、まだ理解できる。
だが――
両舷に備わった巨大な輪。
水車のようで、しかし水車ではない。
船の横腹から突き出した外輪が、
沈黙した獣の肋骨のように見えた。
「……なんや、あれ」
坊丸が呟く声は震えていた。
恐怖というより、理解の外に触れた震え。
蘭丸は、思わず信長を見た。
こういう時、
信長なら何と言うのかそう思ったのだ。
だが信長は、ただ船を見ている。
当然のように。
驚いていない。
怯えていない。
まるで最初から知っていたかのように、 目を細めて眺めていた。
「……これほど、とはのう」
それだけ。
信長の声は淡々としていて、
逆に蘭丸の背筋を冷やした。
主君は“予定通り”の顔をしている。
(信長様は……
最初から、ここへ来るつもりだったのか)
疑問が生まれるより早く、
別の感覚が蘭丸の胸を刺した。
――強い。
ただ見ただけで分かる。
この船は、戦のためにある。
いや、船というより――艦。
関船に似せた姿をしているのに、根本の思想が違う。
“海の城”ではない。
“海を制圧する獣”だ。
船首には、巨大な弩が据えられていた。
城の櫓に載せるものよりも遥かに大きい。
矢は槍より太く、鉄の塊のように見える。
あれが放たれたら――
城壁すら貫く。
周囲にも小型の弩がいくつもある。
装備の細部までは見えない。
だが分かる。
この艦は、“戦国”の常識を超えている。
そして、その異質さの中心にあるのは
船体中央部に鎮座する、
黒い箱のような構造物だった。
煙突。
と呼ぶには、あまりにも不気味な筒。
蘭丸は言葉を失った。
あれは何だ。
焚き火の煙を逃がすため? 違う。
あんなもの、船に要るはずがない。
坊丸が、思わず一歩下がる。
「……あれ、船ちゃうで。化け物や……」
つきは、見上げたまま固まっている。
地底の光が、少女を照らした。
――綺麗だ。
思わず力丸の胸に、そんな感想が滑り込む
白い肌。整った鼻筋。睫毛の影。
まるで物語に出てくる姫君――
いや、天女。
(……あの物語の姫ではないか)
つきは、この場所の存在を知っていた。
錦之介のそばにいる以上、
知らぬはずがない。
だが、見るのは初めて。
だから今、彼女は見上げたまま動けない。
力丸――森長氏は、静かに歩み出た
本能寺の炎も、追手も、主君の生死すら
――些事であるかのように。
力丸は艦を見上げ、微笑む。
“すべて準備は整っている”
とでも言うように。
気負いはない。
しかし、その落ち着きが逆に圧倒的だった
蘭丸は、その横顔に寒気を覚えた。
いや――寒気ではない。
これは、畏れだ。
力丸が、静かな声で言う。
「……信長様。これが、次の道です」
錦之介は一歩遅れて頷く。
歌舞伎役者のように通る声で、
淡々と告げた。
「ここより先は、
もはや天下の枠には収まりませぬな」
坊丸が声を絞り出す。
「りっきゅん……これ……
どこで手に入れたん……?」
力丸は、坊丸を見ない。
艦を見たまま、ただ一言だけ返す。
「詳しくは後ほど」
その声音は静かだった。
だが、拒絶ではない。
“今はまだ話す段階ではない”
と告げる、絶対の自信。
――ここから先は、俺が導く。
そう言っているようだった。
信長が、肩を竦めた。
「儂の望みじゃ。
天下取りなど……つまらぬ」
蘭丸の心臓が跳ねた。
天下取りが――つまらぬ?
あの織田信長が?
第六天魔王が?
信長は艦を見つめたまま、続ける。
「後のことは、奴らに任せる。
儂は――世界が見たい」
言葉の意味が、蘭丸にはまだ掴めない。
だが、その言葉が“時代”を終わらせる
力を持つことだけは分かった。
京は燃えている。
本能寺は炎の中で崩れ落ちている。
誰もが信長を討ち取ったと信じ、
歴史は次へ進む。
だが――
地底で、歴史の外側へ向かう“魔王”がいた
天下ではない。
戦国でもない。
世界へ。
そして、その艦が目を覚ました時、
この国の“常識”は音を立てて崩れるだろう
――魔王の選ぶ道とは。
第一話『魔王、炎に消ゆ』 了
はい
なんで隠居しちゃうのか?
謎のままです
もうちょい、ホラ、満を持して
って言うか
それよかー
艦が出てきました。
規模的には、関船クラスですが、
いやあ蒸気機関をね
実装しとりますねー
関船については、
やほー、とか
ぐるぐる、とかね
調べてみて下さい
蒸気機関は、
この時代にないですね
この辺りから、ブッとびますよ
色んなモノが(^^)




