第七話 因果は巡る 其の四『再会(reunion)』
赤仮面の我儘
任務は完了しました
“死んだことになっている”
者たちの話デス
海。
ザァン……
ザァ……
潮の匂い。
霧の向こうに、鉄の巨船。
甲板。
風。
外套がはためく。
一人の男が、海を見ている。
信長
⸻
背後。
コォォ……
空間が歪む。
ズッ……
三つの影が現れる。
勝家。
お市。
そして――護衛の忍び。
転移。
赤仮面の転移魔法。
もはや隠さなくなっていた“力”で、
救出した二人と、
供の者を第一拠点“釜石”に送った。
⸻
勝家
「……なんだここは」
お市
「海……?」
足元の感触。木ではない。鉄。
視線が前へ。
男の背。
風が鳴る。
バサァ……
⸻
お市
「……」
勝家
「……」
見覚えがある。だが、あり得ない。
⸻
信長
「……誰だ」
⸻
その一言で、現実が、歪む。
お市
「…………」
勝家
「…………」
言葉を失う二人。
⸻
信長
「ここは儂の拠点だ。無断で現れるな」
僅かに殺気を放つ。
⸻
お市
「…………兄上?」
その目は、うっすらと滲む
⸻
信長
「……その声……」
ゆっくり振り向く。
⸻
信長
「……市?」
驚きの色は隠せない。
⸻
勝家
「……信長様……?」
どこか滑稽な顔。
⸻
信長
「勝家……?」
何故か、がっかり顔。
⸻
沈黙。
次の瞬間――
バチィン!!
乾いた音。
信長の顔が弾かれる。
信長
「ぬっ……!?」
一歩、よろける。
護衛忍(小声)
「っ……!」
別の忍び(小声)
「動くな」
お市
「この……うつけが!!」
涙。
怒り。
「死んだなどと!!」
「何をしておられるのですか!!」
信長
「ま、待て……」
完全に困惑。
「落ち着け」
お市
「ふざけるな!!」
その横で――
ニヤァ……
勝家
「ははは!!」
「いいぞ市!!」
信長
「……勝家?」
勝家
「生きておられたか、殿ォ!!」
だが、態度は軽い。
「いやぁ、死んだと聞いた時はなぁ!!」
信長
「儂は死んでおらん」
勝家
「知るか!!」
ドン!!
胸ぐらを掴む、信長。
⸻
護衛忍(小声)
「……止めますか……?」
別の忍び
「……無理だ」
⸻
信長
「貴様……」
勝家
「主が勝手に消えるからだろうが!!」
信長
「貴様らこそ、なぜここにおる」
勝家
「それはだな――」
お市
「勝家!!」
バシッ!!
頭を叩く。
勝家
「いっ……!」
お市
「まずは礼を尽くせ!!」
勝家
「なんでだ!!」
お市
「主君だぞ!!」
「それに、私の兄だ!!」
信長
「そうだそうだ」
にんまり。そして腕を組む。
勝家
「ぬぁにおぉう!!」
ドゴォ!!
ガシッ!!
信長
「遅いわ」
勝家
「今のは速かっただろうが!!」
ぐぐぐ……
お市
「やめなさい二人とも!!」
バシバシ!!
信長
「痛いわ!!」
勝家
「今は戦いだ!!」
お市
「戦うな!!」
その光景を――
少し離れて見ている男。
守亮
腕を組み、静かに観察している。
守亮(小声)
「……これが、あの三人か」
護衛忍
「止めますか」
守亮
「……いや」
一拍。
守亮
「今は、触れん方がいい」
視線を戻す。
三人は、まだやっている。
勝家
「だいたいなァ!!」
信長
「なんだ」
勝家
「我らがどれだけ――」
お市
「それ以上は言い過ぎです!!」
勝家
「なっ!?」
お市
「兄上に向かって!!」
勝家
「いや今のは俺が正しいだろうが!!」
信長
「いや、勝家が正しい」
勝家
「ほら見ろ!!」
信長
「だが態度が気に食わん」
勝家
「どっちだ!!」
二人とも武士というよりは、クソガキ
である。
お市
「二人とも黙りなさい!!」
ピタリ。
止まる。
肩で息。
間。
信長、ふっと笑う。
勝家も、笑う。
お市、呆れてため息。
だが――
目は、潤んでいる。
誰も言わない。だが、分かっている。
――生きている。
風。
ザァン……
甲板にて、
心地良い風が三人をもてなしていた。
ザァン……
ザァ……
三人は、向き合っている。
先ほどまでの喧騒が嘘のように
――静か。
一頻り騒いだからか、
三人は、落ち着いた。
いや、時が戻ったようでもあった。
「では、儂から話そう」
信長が切り出した。
◆あの日の情景が浮かぶ《本能寺の変》
炎。
天を舐めるように、
業火が、柱を呑み込んでいた。
バチ……バチ……
崩れる音。
焼ける匂い。
血と煙が、入り混じる。
【信長の語り】
既に、勝敗は決していた。
「最期は、悟っておった」
静かに座す。
刀の前。
炎が揺れる。
「武士として、果てるだけよ」
その時。
スッ……
力丸
「お迎えに参りました」
信長、目を細める。
「……妙な男であった」
力丸
「抜け道があります」
信長
「抜け道、だと」
笑うたわ
だが、その目は、嘘をついておらなんだ。
そして、蘭丸、坊丸と共に抜けた。
「……面白い」
そう感じた。
畳の下の抜け穴から、
「今思えば、本能寺に入る以前より、
仕込まれておったのだろう」
抜け穴を降りる。闇の中へ。
狭い、湿った道。出ると小さな店。
抜けた先は――
⸻
戸が開く。
カラ……
中に二人。
一人は、男。静かに座す。
もう一人は、少女。
そこにおったのは、
“竹中半兵衛”
そして――
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少女の瞳。
こちらを真っ直ぐに見ている。
養女、“つき”
⸻
半兵衛
「お待ちしておりました」
信長
「待っていた、だと」
⸻
力丸は、半兵衛と繋がっておった。
そして、新たな抜け道。
抜けると、なぜか石巻に出た。
それから色々あって
信長
「気づけば――ここにおった」
船。 人。 拠点。
信長
「戦も、炎も、すべてが遠い」
一拍。
信長
「そして――」
「魔王は、“死んだこと”になっておる」
静かに笑う。
「面白いではないか」
⸻
風。
ザァン……
静寂。
風が、わずかに通る。
信長の語りが終わる。
誰も、すぐには口を開かない。
お市。勝家。
二人の表情は、
驚愕。 困惑。
そして――
納得。
お市(小さく)
「……そういうことか」
だが。
今度は――
視線が、信長へ向く。
信長
「何じゃ」
お市
「次は、私じゃ」
信長、わずかに目を細める。
市が話し始める。
◆あの男との出会い《北ノ庄城内》
炎の城。揺れる灯り。
「城内に現れた、赤仮面」
膝をつく影。
男は、こう言った。
「生きていただきます」
⸻
お市の目に映る揺れる炎。
死を選ばんとする者に生を差し出す。
その男“赤仮面”
何故か、その瞳は信じられた。
そして、
色々あって
⸻
お市
「ここに至る」
静かに、息を吐く。
信長
「筋は通っておるな」
⸻
空気が、ひとつに収束する。
三者の語りは、揃った。
本能寺にて信長は、逃がされた。
そして、
北ノ庄にてお市は、逃がされた。
勝家も
一拍。
その手の内にあった。
静寂。
すべては――
“赤仮面”
すなわち――力丸の策
だが、
風。
サァ……
わずかに、揺れる。
それだけでは、ない
拠点。 人。 規模。
この規模この周到さ
そして、この力
ただ一人の思いつきで成せるものではない
その目的は――
勝家
「待て待て待て待て待て」
「儂、喋っとらんだろ」
ナレーション
空気が、壊れた。では、どうぞ。
勝家
「オホン。では、」
「北ノ庄、勝敗は決していた」
「死に際を考えていた時、あの男が現れた」
「…………」
「そして、ここにおる」
《勝家の内容の薄い話に呆れる忍びたち》
信長と市は、
聞いてなかった。
つづく
信長も勝家も素の顔は、
ダメなオジサンでしたねー
お市の方
お察しします
ネコ畑ニャン三郎でした




