第六話 賤ヶ岳の戦い 其の一『Mission: Impossible』
あの有名な賤ヶ岳の戦いデスっ
北ノ庄城
完全に優勢に進軍する秀吉勢
「圧倒的じゃないか、我が軍は」
と、秀吉が言ったとか、言わなかったとか
◆越前 北ノ庄城。
柴田勝家の本拠である。
だが今
その城は
終わりの影に包まれていた。
羽柴秀吉の軍勢。
迫り来る大軍。
城下には
不穏な空気が漂う。
兵は慌ただしく動き
町の者は口数を減らし
誰もが
戦を予感していた。
だが
その町の中に
もう一つの軍勢が潜んでいることを
誰も知らない。
奥州
伊達政宗の忍び衆
黒脛巾組。
一個大隊規模の忍びが
すでに町へ溶け込んでいた。
彼らの任務はただ一つ。
お市様の救出。
ついでに勝家も
そして
柴田勝家、お市の方、自刃の偽装。
この作戦は
歴史に残らない。
残るは
ただ一つの結果だけ。
北ノ庄城は、炎に包まれ
お市と勝家は、城を枕に討死に。
――それが史実となる。
だが
その裏で
影は動く。
⸻
◆夜。
北ノ庄城下。
町は静まり返っていた。
遠くに見える、北ノ庄城の灯り。
その屋根の上。
瓦に腰を下ろす男。
クラ(森坊丸)である。
屋根の上から、城を見ている。
静かな夜風。
クラは水を飲む。
小さな足音。
瓦の上。
軽い音。
振り向かずに言う。
クラ
「来る思たわ」
つき
「……」
何を言おうか迷いが見える
つきが立っている。
月明かり。
いつもの
控えめな少女。
だが、その目は静かに鋭い。
意を決して話し始める
つき
「城内」
クラは、城下を見つめる
「どうや」
つき
「お市様は…気づいています」
クラ、驚きはしない
「……」
クラは少し笑う。
「やろな」
つきの表情は固い
「ですが、何も言いません」
クラは城を見る。
「強い人や」
つき、なぜかうれしそう
「はい」
少し沈黙。
遠く 兵の声が聞こえる。
戦の気配。
つき、ぎこちなく
「クラ」
クラは、何も変わらない
「ん?」
つき
「もし」
「もし、失敗したら」
即答。
クラ
「せえへん」
つきは少し驚く。
つき。
「……」
大仕事の前に不安に押し潰されそうだ。
つき の、目の前にクラ
クラは、真顔で
「うちは」
「失敗せえへん」
つき
「どうして」
少し泣きそうに
クラは小さく笑う。
「兄貴がな」
つき
「?」
クラ
「兄貴が無茶する時は」
「だいたい」
「上手くいく」
つき
「小次郎様(力丸)」
クラ
「そや」
「うちの弟や」
つき
「……」
つきは少し空を見る。
「不思議な方です」
クラ
「せやろ」
クラは城を見上げる。
少し笑った。
炎の前の静けさ。
クラ
「ほな」
つき を見て
「明日や」
つき
「はい」
クラ
「よう寝とき」
つき
「忍びですから」
「どこでも寝れます」
少し落ち着いたようだ。
クラ
「ええ子や」
つきは少し笑う。
「クラも」
「よう寝とき」
クラ、声は殺して大きく笑う
「おう」
つきは静かに去る。
屋根の上に
クラ一人。
城を見上げる。
クラ
「……」
小さく呟く。
「ほな」
「やったるか」
決戦前夜、齢十七、十六の
少年少女の忍びが居た。
北ノ庄城。
その運命が動くのは
明日。
そして、夜明け。
北ノ庄城。城の周囲には、
すでに羽柴秀吉の軍勢が迫っていた。
鬨の声が挙がる。
太鼓。兵の足音。戦は始まった。
◆北ノ庄城。
城内。兵が走る。
「羽柴勢だ!」
「門が破られる!」
柴田軍は必死に応戦する。
だが
城内の混乱は
敵の侵入だけではなかった。
その混乱は、静かに始まっていた。
⸻
城内。
廊下。
羽柴兵が走る。
その時。
一人の武将が見えた。立派な甲冑。
大柄な体。兜。
羽柴兵
「……」
兵が叫ぶ。
「勝家だ!!」
兵たちが一斉に斬りかかる。
武将は逃げない。
刀を抜く。一太刀。
羽柴兵が倒れる。
もう一太刀。兵が崩れる。
兵たちは一斉に襲い掛かる。
斬る。
倒れる。
兜が外れる。
兵
「……」
顔を見る。
兵
「違う」
兵
「影武者だ!!」
勝家を知らぬ兵にも
一目で影武者とわかるのは、
見事としか言いようがない。
その時には、その武将は
もう息絶えていた。
だがこの時、羽柴兵はまだ
この出来事を深くは考えなかった。
勝家の影武者。
武将なら珍しくもない。
⸻
別の場所。
城門近く。
羽柴兵が走る。
その時。
また現れる。
柴田勝家。
羽柴兵
「勝家だ!!」
兵たちは斬りかかる。
しかし、この勝家は逃げない。
大薙刀を振るう。
一撃。兵が吹き飛ぶ。
また一撃。兵が倒れる。
羽柴兵
「本物だ!!」
必死に囲む。
斬る。
倒れる。
兜が外れる。
兵
「……」
兵
「また影武者か」
兵の顔に疑問が浮かぶ。
⸻
その頃。
城内。
瓦屋根の上。
クラが座っている。
隣に月叟。
城内の様子を見ている。
兵が走る。
怒号。混乱。
クラ
「始まったな」
月叟
「見事ですな」
クラ
「まだ前座や」
月叟
「前座」
クラ
「主役はまだや」
月叟は城を見る。
「しかし」
月叟
「これは見事な芝居」
クラは笑う。
「黒脛巾組」
「総出の舞台や」
⸻
城内。
兵が走る。
「勝家を探せ!」
その時。廊下の向こう。
柴田勝家が歩いている。
羽柴兵
「いたぞ!」
兵が走る。
だが
その兵が角を曲がると
そこにはもういない。
兵
「……?」
その瞬間。別の兵が叫ぶ。
「勝家だ!!」
振り向く。
そこに
また勝家。
兵
「な……」
さらに
屋根の上。勝家。
門の前。勝家。
庭。勝家。
兵
「なんだこれは!」
兵
「影武者が何人いる!!」
さらに遠く。
また勝家。
兵
「追え!!」
だが、追えば追うほど
現れる。
また勝家。
また勝家。
また勝家。
兵
「どれが本物だ!!」
⸻
その頃。
城の奥。
一人の勝家が静かに歩いていた。
その男は他の影武者と全く同じ姿。
甲冑。
兜。
歩き方。
何も違わない。
だが
その目だけが静かだった。
その男を
誰も見ていない。
なぜなら
城のあちこちに
勝家がいるからだ。
⸻
城内。
羽柴兵の叫び声。
「また勝家だ!」
「こっちにもいる!」
「屋根の上だ!」
「門の前だ!」
城は
完全な混乱に包まれていた。
瓦屋根の上。
クラが城を見下ろす。
「ようやく」
クラ
「芝居の幕や」
月叟
「役者は揃いましたな」
クラ
「せや」
不敵に笑うクラ
「主役も」
「もうすぐや」
その時。
城の奥。
炎が上がる。
兵の叫び。
そして
また声。
「勝家だ!!」
振り向く。
そこに三人。
さらに
奥から四人。
屋根の上。
また一人。
兵
「な……」
兵
「なんだこれは!!」
その夜
北ノ庄城には
無数の柴田勝家が現れた。
そして
その影の中に
本物がいることを
誰も知らない。
つづく
忍びが城の屋根の上で
いやあ、ぽいですねー
ぽいです。
坊丸が、ちょっとカッコつけるトコ
良くないデスか?
お気付きでないかもしれませんが、
坊丸くん
イケメンですのでっ
ここ大事




