第五話 奥州統一へ(ニ) 其の六『お市の方』
芦原から北ノ庄城へ
一個大隊ほどの特殊部隊が、草となり
道中へ行く。
ある者は商人、ある者は僧、ある者は農夫、ある者は女中見習い
そして、
大部分の者は痕跡を残さずに忍び寄る。
静かな話ですが、迫力がある場面です。
◆草
越前。
北ノ庄城から北へ二日の地。芦原。
街道沿いに広がる
静かな町。
農家と商家が混じり
行き交うのは
旅人
荷運び
行商人
ただそれだけの
ありふれた土地であった。
七日。
それだけの時間があれば
影は
人の中へ
いくらでも紛れ込む。
黒脛巾組は
町へ散った。
忍びは草となる。
それが本来の姿である。
⸻
◆道中
北ノ庄へ続く街道。
旅人が行き交う。
その中に
荷を担ぐ農夫在り。
クラである。
汗を拭い
歩幅を崩さず
黙々と歩く。
弥七が並ぶ。
弥七
「……」
弥七、世間話をするかのように
「見事に馴染みますな」
クラ、自然に受け応えする
「昔な」
「百姓やったことある」
少し笑っている。
弥七、軽く驚きを見せた
「本当ですか」
クラ
「嘘やで」
弥七は、まんまと揶揄われた
「……」
二人はそのまま
人波の中へ溶けていく。
⸻
ナギ
町の入口。
行商人の列。
帳簿を抱えた商人が歩く。
ナギである。
足取り
視線
物腰
すべてが町の商人そのもの。
守亮が小声で言う。
「お見事です」
ナギ、ドヤる
「忍びですから」
ナギは町を見渡す。
ナギ
(兵糧の荷)
(城へ向かう荷車)
(兵の往来)
ナギは、気配を抑えながら
「北ノ庄は、既に戦支度です」
守亮は、
全く会話していない素振りで
「ええ、そのようです」
「戦の匂いがします」
ナギ
「ええ、城は近い」
⸻
月叟
町外れの小寺。
境内を掃く僧。
月叟である。
静かに掃除をしている。
村人が声をかける。
「お坊様」
月叟は、微笑み
「はい」
村人
「どちらから来られたんで」
月叟
「信濃から」
村人
「北ノ庄へ?」
月叟
「いえ、少し」
月叟は、小首を傾げる
「世を見て歩いております」
村人は頷く。
「もうすぐ戦があります」
「怖い世だよ、
ナマンダブ、ナマンダブ…」
月叟は、頷く
「……」
月叟
(戦はもう、始まっている)
⸻
◆第四中隊
町の屋敷。
女中たちが働く。
水を汲み
庭を掃き
米を研ぐ。
その中に
つきがいる。
動きは静か。
しかし無駄がない。
年配の女が声をかける。
女中
「新しい子」
つき
「はい」
女中
「手際いいね」
つき
「ありがとうございます」
女中
「助かるよ、働き者は大歓迎さ」
つき
(城の女中も、同じ)
(人は、どこでも同じ)
⸻
◆城下
北ノ庄城下。
そこにも影がある。
荷運び
職人
旅人
浪人
どこにでもいる人々。
しかし、その中には
黒脛巾組の忍びがいる。
忍びとは、戦う者ではない。
消える者である。
⸻
◆米沢
遠く離れた米沢。
城の一室。
政宗の側近く。
重定が静かに座っている。
窓の外を見る。
遠く奥州の山。
重定は独り呟く。
「七日ほどか」
静かな声。
重定
「長いようで短い」
湯気の立つ茶を手に取る。
重定
「クラ」
「ナギ」
「月叟」
一瞬の沈黙。
「つき」
目を閉じる。
重定
「忍びは、戦う前に」
小さく息を吐く。
「勝つ」
越前では、影が町へ溶け込み
奥州では、一人の男が
静かに、その時を待っていた。
そして
いよいよ
北ノ庄で歴史が動く。
◆女たち
北ノ庄城。
越前随一の堅城。
しかし今
その城は
静かな終わりの気配を纏っていた。
城内を歩く女中たち。
足音を忍ばせ
水を運び
膳を運ぶ。
その中に
つきがいる。
誰よりも目立たず
誰よりも自然に。
どこにでも居そうな女中
「新しい子」
つき
「はい」
しかし、良く働きそうな女中
「どこの生まれ?」
つき
「越前の山の方です」
女中、そっと頷く
「そう」
女中はそれ以上聞かない。
この城では
余計な詮索をする者は少ない。
皆
どこかで
終わりを感じているからだ。
つき
(城内の警戒は薄い)
(兵は外へ)
(女は城に残る)
視線を上げる。
奥の座敷。
そこに
一人の女が座っていた。
⸻
お市
気品のある姿。
しかし
ただ美しいだけではない。
強い。
それが一目で分かる。
お市である。
つきは頭を下げる。
「失礼致します」
お市は無表情だ
「……」
お市はつきを見る。
静かに。
じっと。
お市
「新しい子か」
つき
「はい」
お市、ぶっきらぼうに
「名は」
つき
「つきと申します」
お市、微かに微笑む
「つき」
お市は小さく頷く。
「良い名だ」
つき
「恐れ入ります」
お市はふと笑う。
嘲笑めいた表情のお市
「この城も」
「静かになった」
そして、寂しげだった
つきは答えない。
お市
「兵は皆、戦の準備」
「女ばかり残っている」
つき
「……」
怒っているようでもある、お市
「怖いか」
つき
「いいえ」
つきの声は小さい。
だが
迷いがない。
お市の目が僅かに細くなる。
「そうか」
「強いな」
つきは俯く。
「いえ、良く…わかりません、です」
お市はしばらく黙る。
そして静かに言う。
お市
「戦は」
「嫌いだ」
つき は、
真っ直ぐお市を見ている
「……」
お市、やはり怒っているのか
「だが」
「武家に生まれれば」
「逃げることも出来ぬ」
お市は遠くを見る。何を想うか
お市
「父」
「兄たち」
「夫」
「皆」
「戦の中にいた」
つき は、思い浮かべる
(織田信長)
(浅井長政)
つきは黙って聞く。
お市
「娘たちも、武家の娘だ」
「この世を、強く生きねばならぬ」
つき は、共感したように
「……はい」
お市が見る。
その目は鋭い。
お市は、少し冷静になって
「お前、どこで育った」
つき
「山里で」
お市
「そうか」
沈黙。
しかし、お市の視線は
つきを見ている。
お市
(この子、女中か)
(所作、声、立ち方)
(武家の娘)
だが、お市はそれ以上言わない。
お市は静かに笑う。
「よい」
「ここにおれ」
この後に及んで、
栓無き事とでも思ったか
つき
「はい」
つき も察している
(気づかれた。それでも)
(問わない)
つきは理解する。
この女は、ただ守られる女ではない。
戦国を生きた女。
お市である。
◆夜
城の廊下。
つきが歩く。
月が差し込む。
つき
(お市様は強い)
(そして、優しい)
足を止める。
城の外を見る。
遠く
北ノ庄城下。
そこには
黒脛巾組がいる。
クラ
ナギ
月叟
弥七
影が町に潜んでいる。
つき
(七日)
(もう、すぐ)
忍びは人の影に潜む。
そして
その影は
静かに
歴史の流れを変える。
北ノ庄。
その城で
まだ誰も知らない。
この城から
一人の女が
救い出されることを。
そして
その影に
黒脛巾組がいることを。
つづく
ご登場いただきましたっ
お市様デスっ
戦国一の美女だとか
ありがたやありがたや
信長公とは、随分と歳の差ですね
つまりは、勝家殿とも歳の差婚なんですねー
そりゃもう、次は秀吉?
冗談じゃないわよっ
って言ったとしても、おかしくない
イメージは声ビジュともに、
私の中では
長澤まさみさん
急に実写かよ
ごめんなさい。好きなんデス
ただのお嬢様っていうよりかは、
アレコレ妄想した結果デス
ご容赦
m(._.)m




