第五話 奥州統一へ(ニ) 其のニ『軍師、対峙する』
首尾よく伊達家中に入り込んでおります
半兵衛、
政宗の創設する忍び衆奉行となるべく
その才を隠そうとはしません。
と、いうようなことを描いています。
伝わっていますでしょうか。
忍び衆奉行の任を請けた
安倍重定――
またの名を
よろず屋の錦之介。
そして、その正体は、
竹中半兵衛重治
である。
かねてからの計画通り、
伊達領内近くにて、安倍重定としての
“種”を撒いていた。
それは、力丸の計画。
ひとつには、伊達を支えること
もうひとつには、“拠点”を伏せること
影である“忍び”に、表と裏の顔
こうして撒かれた“種”が
芽吹く時を待っていた頃。
安倍重定は、忍び衆奉行の任を得た。
いよいよ、時が来た。
重定はある日、
主君である若き当主候補
伊達藤次郎政宗に呼び出された。
伊達家中では密かに、
新たな構想が進められていた。
新たな忍び衆の創設。
奥州の情勢は未だ混沌としている。
最上、芦名、相馬、佐竹――
諸勢力は互いに牽制し合い、
機を窺っていた。
この奥州を制するために
政宗が求めたもの。
それは軍でもなく、兵糧でもない。
“目”であった。
奥州すべてを見渡す、影の目。
その構想を聞くため、
忍び衆奉行となった重定は
米沢城の一室へ呼び出されたのである。
⸻
◆米沢城内書院
政宗と小十郎が先に座している。
家臣が告げる。
「安倍重定、参上」
男が静かに入る。
頭を下げる。
重定
「お呼びにより参上いたしました」
政宗
「近う」
重定が座る。
短い沈黙。
政宗は、ただ男を見ている。
小十郎もまた、黙って観察している。
政宗
「小十郎」
小十郎
「は」
政宗
「この男をどう見る」
突然の問い。
重定の前である。
小十郎は一瞬だけ政宗を見る。
(試しておられるな)
小十郎は視線を重定へ戻す。
小十郎
「さて」
小十郎
「商人とも、武士とも見えませぬ」
重定は微動だにしない。
しかし、心中では自分を値踏みする男が、
どれほどの者かと推し量っている。
小十郎
「ただ」
小十郎
「嘘は申さぬ男かと」
政宗
「ほう」
政宗は重定を見る。
重定を量るようであり、
小十郎の“目”を量るようでもあった。
政宗
「どうだ、当たっておるか」
重定
「恐れながら」
重定は、政宗を正視する。
いや、政宗を視ているようで、
何も視ていないようでもある。
「嘘を申せば、すぐに見抜かれましょう」
気のせいか、
政宗の口元に少し笑みが見える
「誰に」
重定
「御両名に」
顔色からは、何も捉えられない。
小十郎の眉がわずかに動く。
政宗は笑う。
⸻
政宗
「忍び衆を作る」
重定
「承知しております」
政宗
「奥州を取るには目が足りぬ」
重定
「左様で」
政宗
「だが忍びは、すでに居る」
重定
「おります」
政宗
「ならば何が足りぬ」
重定
「主でございます」
重定は、全く表情を変えない。
小十郎が重定を見る。思惑を探るように。
重定
「忍びは草にございます」
目に少し力が入る。
「潜み、見て、聞く」
「しかし」
「草は、刈り取る者がおらねばただの草」
静かに続ける。
重定
「誰が見て」
「誰が聞き」
「誰がそれを持ち帰るか」
「それを束ねる者がおりませぬ」
小十郎は、探る表情を解いた。
「……」
小十郎
「だから、奉行か」
重定
「左様」
「私の役目は忍びではございませぬ」
重定の目力が増す
「忍びを動かすこと」
政宗
「奥州すべての草を、か」
重定
「出来る限り」
政宗の目が僅かに微笑んだ。
「大きく出たな」
重定が応える
「大きくなければ意味がございませぬ」
小十郎の視線が鋭くなる。
(この男…)
(臆さぬ)
⸻
政宗の笑みは消え
「忍びはどう使う」
重定もまた表情を消した
「二つに分けます」
小十郎が問う
「二つ」
重定
「山野を動く者」
「そして、人の中に潜む者」
政宗
「頭は」
重定は即答する。全て整っている。
「置くべきでしょう」
政宗
「候補は」
重定
「既に見ております」
小十郎
「早いな」
重定
「忍びは探すものにございます」
政宗
「名を言え」
重定は、間を空けず応える。
「世瀬蔵人」
小十郎は、探る。
「……」
重定
「山野の働きに長けた男」
政宗も間を空けず問う。
「もう一人」
重定は、間を空けず応える。
「柳原戸兵衛」
小十郎は、何か形が見えたように
「人の中を動く者か」
重定は、少し間を空けた
「はい」
⸻
沈黙。
政宗が小十郎を見る。
それは、小十郎への問いかけ。
小十郎は小さく頷く。
そして、応えた。
(使える男)
政宗は笑う。
「面白い」
政宗は、重定という男と、
この忍び衆への期待を隠さない。
「その二人、呼べ」
重定顔に僅かに安堵が滲む。
「は」
政宗は晴れやかに
「伊達の新たな忍び衆を作る」
政宗
「奥州の目だ」
⸻
こうして――
伊達家に、新たな影が生まれた。
その網はやがて奥州に広がり
多くの者がその存在すら知らぬまま
歴史の裏を動かしてゆく。
その始まりは
この静かな会議であった。
つづく
方や半兵衛とも評された秀吉の軍師。
もう方や独眼竜の軍師。
この若き軍師は、どうなるでしょうか
ワクワクしませんか^ ^v




