第四話 奥州統一へ(一) 其の三『パパとなっちゃん』
はてさて、いったいどういう意味が?
まあダジャレオヤジも気に入っていますし?
ヨイデワナイカ ヨイデワナイカ
(°▽°)
夜明けの光が、
障子越しに淡く差し込んでいた。
本能寺の炎から逃れた夜の疲労が、
ようやく身体に追いついたかのように、
皆の顔には微かな倦怠が残っている。
だが、空気だけは妙に張り詰めていた。
――いや、張り詰めさせられていた、
と言うべきか。
信長――いや、甲斐紫電は、
座敷の中央に胡座をかき、
どこか機嫌良さげに盃を転がしていた。
その前に、正座する若者。
甲斐紅蓮。
伊達小次郎政道であり、
森長氏の影を引き継ぐ者。
「さて」
紫電が盃を置き、ゆるりと口を開いた。
「名も定まり、役目も定まった。
あとは――儂の宣言だけじゃな」
その声音に、戸兵衛は嫌な予感を覚えた。
蔵人も、安定も、
つきも、わずかに視線を上げる。
紫電は紅蓮を見た。
慈父のような笑みで。
「今日から、儂と紅蓮は
――親子ということじゃな」
一瞬、空気が止まった。
次の瞬間、座敷が割れたようにざわめく。
「はぁ!?」
「な、なにを突然……」
「親子、ですか?」
蔵人が立ち上がりかけた。
「ちょ、ちょい待ちぃや!
そんなんズルいわ、
後から来て自分だけ!
なんで急に親子やねん!」
紅蓮は目を見開き、
わずかに顔を赤らめている。
戸兵衛は思わず額を押さえた。
「……親子というより、孫の歳では?」
即座に突っ込む。
「儂はまだ若い」
紫電が真顔で返した。
「いや、
見た目の問題やのうて戸籍年齢の話や」
蔵人がぼやく。
安定は静かに顎に指を当て、
冷静に言った。
「法的年齢の矛盾は、我々の存在自体が既に無視している問題ですが」
「そこは突っ込まんでええ!」
蔵人が即座に叫ぶ。
紅蓮は慌てて首を振った。
「い、いえ、私など……恐れ多く……」
だが紫電は愉快そうに笑った。
「なに、名だけの話よ。
甲斐の姓を同じくする以上、
外から見れば親子であろう」
その言葉に、戸兵衛の視線が鋭くなった。
(……外から見れば、か)
紫電は続ける。
「それに、力丸の意も汲んだまでじゃ」
紅蓮は息を呑んだ。
「紅蓮に“為成”という名。
儂の“成行”という名。
同じ“成”を使う。」
戸兵衛は、ようやく悟った。
信長が名乗った「成行」。
そこに、「為成」を重ねた意味。
(史を“為す”者と、事を“成した”者)
安定が静かに頷く。
「……力丸殿の意図を、
殿は正確に読み取られた」
紫電は肩をすくめた。
「儂は人の心を読むのは得意でな。
紅蓮は、史を“為す”者。
儂は夢を“行く”者。
親子という関係は、ちょうど良い」
蔵人が頭を抱えた。
「なんやその親子関係、
哲学的すぎやろ……」
戸兵衛は紅蓮を見た。
彼は、戸惑いながらも、
どこか誇らしげに胸を張っている。
だが、その背筋の伸ばし方は――
やはりどこか育ちの良さが滲む。
(……お坊ちゃん気質は、消えんか)
つきが小さく笑った。
「紅蓮様、父上ができましたね」
紅蓮は慌てて俯いた。
「そ、その……父上、など……」
紫電は満足げに頷いた。
「うむ、良い響きだ。遠慮せずに呼べ」
「いやいやいや!」
蔵人が両手を振る。
「どこまで本気なんや、この人……」
戸兵衛はため息を吐いた。
「……影で史を操る集団が、
家族ごっこを始めるとは」
「家族ではない。政治的擬似血縁だ」
安定が淡々と訂正する。
「余計に怖いわ!」
蔵人が叫んだ。
紫電は笑い、立ち上がった。
「冗談ではない。
紅蓮は儂の名を背負う。
それはつまり、
儂の夢を背負うということだ」
紅蓮は深く頭を下げた。
「……身に余る光栄。
命に代えても、その名を汚しませぬ」
その声音には、
伊達家の御曹司の甘さではなく、
覚悟を決めた武人の響きがあった。
戸兵衛は、
胸の奥に小さな違和感を覚えながらも、
確かに認めざるを得なかった。
(こいつ……
本気で“力丸”になろうとしている)
紫電は満足そうに盃を取り上げた。
「よかろう。
甲斐紅蓮は、甲斐紫電の子。
史の外で生まれ、
史の中に潜む雷と炎じゃ」
蔵人がぼそりと呟いた。
「雷と炎の親子て……災害一家やんけ」
安定は小さく笑った。
戸兵衛は、ふと天井を見上げた。
(史は、もう誰のものだ?)
影が筆を持ち、
魔王が名を与え、
若者がそれを背負う。
それだけで、
歴史の輪郭が歪み始めている。
紫電は座敷を見渡し、低く言った。
「さて。
影の家族会議はここまでだ。
其々の役目に就け。史は待ってはくれぬ」
戸兵衛、蔵人、安定、つき、紅蓮。
全員が静かに頭を下げた。
こうして――
史に記されぬ親子が、生まれた。
つづく
それぞれの役割も決まり
いよいよ動きだしますよっ




