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作者:真宮葵
修正します。

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 なーちゃんが小さな息を漏らしながら、和樹さんの腕の中で身じろぎした。晶子ちゃんがそっと手を伸ばし、娘の額に触れる。
 「汗かいてるね。お昼寝したほうがいいかな」
 「そうだな。そろそろ寝かせようか」
 和樹さんは軽く七瀬を揺らしながら立ち上がり、柔らかな口調で言った。

 座敷には、食事を終えた親戚たちが思い思いに寛いでいた。響子さんと母が並んで座り、昔の話をしている。洋輔さんは縁側に出て、ぼんやりと庭を眺めていた。なーちゃんを見つめていた真紀が、ふと口を開く。
 「なーちゃん、もう少ししたら喋るようになるのかな」
 「どうだろうね。でも、最近表情が豊かになってきたよ」
 晶子ちゃんが微笑む。

 その言葉を受けて、母と響子さんも話に加わる。
 「このくらいの時期って、ほんとにあっという間よね。志紀や真紀の赤ちゃんの頃も、ついこの前みたいな気がする」
 「うんうん。気づいたら歩いてて、気づいたら口答えするようになってるのよね」
 「そうそう。あと、子どもって変な言葉覚えてくるのが面白いんだよ」
 「あるある。うちの晶子なんて、昔『ぴっぴ』って言葉が好きで、何でも『ぴっぴ』って言ってたなぁ」
 「えー、かわいい」
 真紀が目を細める。
 「でも、最初は何を指してるのか全然わかんなくてさ。『ぴっぴ持ってきて!』って言われても、何のことやら……」
 響子さんが笑いながら話すと、皆がつられて笑った。

 私は塗り替えられてゆく輪の中で静かに頷いていた。

 思い出話に花が咲く中、私はふと視線を落とし、手元のコップを撫でた。湿った水滴が指先に絡みつく。笑い声が交錯する空間の中で、私はそこに溶け込めずにいた。彼らが共有する記憶の網目から、自分だけが零れ落ちているような感覚があった。

 なーちゃんが小さく声を上げた。晶子ちゃんがその声に気づき、すぐに抱き寄せる。
 「眠いのかな。ちょっと涼しいところに行こうか」
 和樹さんが立ち上がり、晶子ちゃんと共に七瀬を寝かしつけに行く。

 座敷に残された私は、親戚たちの声を聞きながら、グラスの中で溶けていく氷を見つめた。ゆっくりと形を失い、水に溶けていくそれは、どこか私自身と重なるように
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