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仕事中しか




 そう言えば、バーベキューをしている時だけだったかな。

 瑠衣るいは思った。

 禾音かのんがすごく饒舌になるのは。


(饒舌って言うか。すごく、バーベキューのお肉とか、旬の野菜とか果物とか、可愛いお菓子とかを、勧めて来るんだよね。見下すような態度で、言い方で、悪態をつきながら)




「おまえ。そんなガリガリでよく生きていけるな。ほら。食えよ。最高級の肉だぞ。おまえの給料じゃ到底届く事のない肉だ。ほら、早く食え。口に合わなかったらすぐに別の肉を用意させるからな。ほら、ほらほら」


 今みたいに。

 仕事中なんてお構いなしに。

 勧めて来るなら、せめて、昼休憩とか夜休憩にしてほしいのだが。


 持ち場に到着した瑠衣がマスクを外して薫香を嗅ごうとした途端、禾音はどこから取り出したのか、バーベキューセットを俊敏に整えたかと思ったら、食材を焼き始めたのだ。


(あれ?そう言えば。仕事中にしか、傍でバーベキューしていない。ような。気がする)


 約二年前に約六年ぶりの再会を果たしてから、ずっと。

 まだ候補生の時も、正式に大気分析家として働くようになってからも、ずっと。

 仕事中にしか、傍に居座って、バーベキューをしていないような気がする。


(禾音も騎士としての仕事があるから、ずっと私の傍に居るわけじゃなかったけど。一日に一回は、仕事中に来たかと思ったら、必ずバーベキューをして、私に悪態をつきながら、食べ物を勧めてきていた………多分。いや、一日に一回は、ない、か、な。二日、三日に一回。か、な。うん。まあ。とりあえずは。言っても、無駄だろうけど)


「あのさ」

「何だ?タレが気に食わないのか?」

「仕事中に、しかも、私の傍でバーベキューしないでくれないかな?」

「え?何で?」

「………」

「ほら、食えよ」

「………いい。まだ、お腹空いてないから」

「ほら。一枚だけでいいから」

「………」


 無視をすればいい。そうすれば、悪態はつくだろうが、諦めるだろう。

 いや、諦めない、ならば、さっさと一枚だけもらって、満足させればいい。

 いつも、いつもいつも、後者に傾く。

 けれど、それだけが、食べる理由ではなくて。


(美味しそうに、見える、から。いけない)


「………いただきます」

「おう。タレはいるか?」


 小瓶に入った数種類ものタレを見せられるも、瑠衣はいらないと首を振って、お皿に乗った掌の三分の一ほどの大きさで、とても薄い肉を受け取り、お箸で掴んで、一口、二口、三口と、ゆっくりと嚙み切って、咀嚼しながら、飲み込んだ。

 ほんのりと塩胡椒がかかった赤身の肉は、健康に大切に育てられていると感じる、生命力が溢れる美味しさだった。


「ご馳走様。もう、食べないからね」

「おう。俺が勝手に食べてるから、食いたかったら遠慮なく言えよ」

「………食べないし」


 瑠衣は禾音に背を向けて、仕事に集中したのであった。











(2024.7.5)




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