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前言撤回




 前言撤回だ。

 瑠衣るいは過去の自分の想いを前言撤回した。

 ハキハキキッパリと心中で自分自身に刻み付けた。

 禾音かのんの事がわからなくて、あの時はひどく気持ちが沈んだが、今は違う。

 わからなくていい。

 わからない方がいい。


(明確な理由はわからないけれど、禾音の事が全部わかったら、うん。わからない方がいい!)


 よくはわからないけれど、禾音の事をわからない方がいい事だけはわかった瑠衣は、とりあえず今流れている妙な空気を変えたくて、吹き飛ばしたくて、ことさらハキハキと言葉を発した。


「あのさ。禾音」

「なに?」

「マスクを外して、嫌な予感の正体を突き止めたいから、手を離して」

「うん。嫌だって、言ったよね」

「うん。聞いた。離して」

「嫌だ」

「離して」

「嫌だ」

「離して」

「瑠衣」

「離して」

「………わかった」

「ありがとう」

「手は外すけど、お姫様抱っこはこのままだからね」

「うん。ところで禾音。本当に身体は痺れてないの?」


 一度は否定したものの、このままずっと否定したところで禾音には通用しないのだとわかった瑠衣は、責められるのを承知で観念して禾音に尋ねたが、禾音は否定した事を突っつかずに素直に痺れていないよと答えた。


「逆に、すこぶる調子がいいみたい。新しいマッサージみたい。って。瑠衣。自分の能力が僕に思うように効かなくて怒ってる?」

「禾音にも効果が与えられるように頑張るよ」

「もうすっごく効果があったけど。うん。へへ。楽しみにしてる」

「………」

「怒った?」

「………怒ってない。もう集中するから話しかけないで」

「うん」


 禾音の手枷から自由になった瑠衣はマスクを外すと、目を瞑って、意識を集中して、嫌な予感の正体を掴もうとした。











(2024.8.7)




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