どちらか
自分を取り戻そうとしているのか。
新たな自分を生み出そうとしているのか。
どちらか、もしくは、どちらともではないかもしれないが。
恐らく本人は認識しての事だろう。
記憶喪失になった事を、後ろ向きに悲観的にではなく、前向きに楽観的に捉えて、自分探しの旅に出ている。
電話を借りた駄菓子屋まで来て診察してくれた宰牙は、ころころと変わる禾音の人格の理由をそう告げると、禾音が言ったように様子を見ようと締めくくって、立ち去って行った。
「ね、言った通りだったでしょ?宰牙医師に来てもらわなくてもよかったって」
「これからも禾音に変化があったら私は宰牙医師に電話して、来てもらって、診察してもらう」
「大丈夫だって言ってるのに」
「大丈夫じゃないかもしれないでしょ」
「僕の事を心配してくれるのはとても嬉しいけど、宰牙医師に二人の貴重な時間を取られるのは嫌だなあ」
「………」
ありがとうございましたと二人で言って、やおら人混みの中に溶け込んでいった宰牙の背中を見続けていた瑠衣は、隣に立つ禾音を見上げた。
「あのさ。一つ、疑問が生まれたんだけど」
「うん。なに?」
「魔法が使えなくなったって言っていたけど。魔法で武器を召喚しなくても、いつも武器を身に着けていたら、召喚しなくても、戦えるんじゃないかな?」
「うん。無理」
とっても素敵な笑顔で禾音に言われた瑠衣は、何でと尋ねた。
それはですねと、禾音はその笑顔のまま瑠衣の疑問に答えた。
「召喚した武器じゃないと、粉々に粉砕して使い物にならないから」
「………オリハルコンの武器でも?」
「粉砕しまくって、騎士団の財務経理部にめちゃくちゃ泣かれちゃったらしいよ。本当なら無給で一生働かなくちゃいけないくらいの損害なんだよとも言われちゃったってさ」
「禾音。給料もらってないの?」
「ううん、もらってるよ」
「………そうなんだ」
「そうなんだ。だから瑠衣と一緒にこれからも暮らすのに何の問題もないから安心してね」
「うん。わかった」
(一生無給で働かなくちゃいけないくらいの損害を補える騎士の実力があるから給料がもらえてるんだよね。やっぱり禾音は、早く記憶を取り戻して、騎士団に戻らないと)
(う~~~ん。なかなかどうして伝わらないなあ。とぼけてるのかなあ?それとも、本当に伝わってないのかなあ?)
(2024.7.30)




