しょうがないなもう
(これからも変わってしまうかもしれないとは確かに思ったけど)
「瑠衣は僕の事だけを考えていればいいんだよ」
(これは。変わり過ぎじゃないかな?)
瑠衣は声音も顔つきも、天使からまた変わってしまった禾音を見て、無言で見続けて、少し、凪に似ているかなと思った。
(声音は、天使の禾音と悪魔王の禾音の中間、くらい、で。自信満々で、煌びやかな光を全身から放出していて、話し方とか雰囲気が優しくて、やわらかくて、ゆったり、余裕がある感じがしていて。落ち着いていて。う~ん、でも。凪局長よりも、強引な感じがする。ような)
この人格変化も記憶喪失によるものなのだろうか。
瑠衣はどこかの店で電話を借りて、騎士団の専属医師であり禾音のかかりつけ医でもある宰牙に禾音を診察してもらおうと足を動かした時だった。
「禾音。両手を離してもらっていいかな?」
「うん。いいよ」
強く握られているわけではないのだ。
禾音にやわく両の手を取られている状態にもかかわらず、どうしてか身体を移動させる事ができなかった瑠衣がそう願い出ると、禾音はすぐに了承してくれた。
「あの。禾音」
「うん。わかってるよ。瑠衣。僕の様子が変わったから、宰牙医師に電話して診察してもらおうとしたんでしょ。でも、大丈夫だよ。これも記憶喪失によるものだから、診察してもらったとしても、様子を見ましょうって言われて、おしまい。だから、診察してもらわなくていいよ。このまま、森に行こう」
禾音は了承した通り、瑠衣の両手から自身の両手を離した。
確かに一度は。
けれどすぐに瑠衣の片手をやわく握ると、森に繋がるゲートがある方へと歩き出した。
「禾音。自己診断ほど怖いものはないよ。きちんと診察してもらおう。じゃないと、私、一緒に森には行けない。もしかしたら、他の原因があるかもしれないでしょ。だから。お願い」
瑠衣は足を止める事はできなかった。けれど、禾音の意見には賛成もできなかったので、禾音の横に並んで歩きながらそう願い出た。
「僕の事が心配?」
立ち止まっては瑠衣へと向き合いながら僅かに首を傾ける禾音に、瑠衣は心配だよと即答した。
「心配だから。お願い」
「………しょうがないなもう。じゃあ。電話を借りようか?」
「うん」
禾音は瑠衣の手を繋いだまま、すぐ傍にあった駄菓子屋へと向かったのであった。
(2024.7.30)




