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 宰牙さいが

 騎士団のお抱え医師でもあり、禾音かのんが騎士見習いよりずっと世話になっている、かかりつけ医師。

 七三分けの灰色の短髪、灰色のちょび髭、二メートルを超える長身、銀色のタキシードの上から白衣を羽織る、老齢男性。

 口を開かなければ、博識で腕の立つ医師に見えるが、口を開くと不思議な事に、ポンコツ開発物しか生み出さない腕の悪い発明家に見えてしまう。




「うん。これも記憶喪失による症状だね」


 瑠衣るいと禾音が一緒に住む平屋のリビングダイニングキッチンにて。

 瑠衣が禾音に朝の挨拶をしてのち、淀みなくハンモックから降りて、テラスから平屋へと入り、リビングダイニングキッチンの壁に設置してある、長方形の木箱に小さな金色のラッパを付けたような電話のラッパのような受話器を手に取り、宰牙に電話をかけると、すぐに来てくれて、禾音を診察してくれたのだ。

 禾音は記憶退行しているにもかかわらず、宰牙に今は何年とか、何歳など、今はどこに住んでいるのか、誰と住んでいるのかなど質問される中で、幼い頃の記憶ではなく、今現在の自分の事を答えていた。


「記憶が退行していても、現状を把握しているのは何故なんでしょう?」

「混乱しないように脳がうまく働いているのだろう」

「うまく働いて早く記憶喪失が治ればいいんですけど」

「ほぉほぉほぉ。禾音と一緒に暮らすのは嫌かね?」

「え?るいちゃん。ぼくと一緒に暮らすの、いやなの?」

「嫌じゃないけど。ずっとは嫌かな」


 瑠衣が隣に座っていた禾音にそう伝えると、禾音は瑠衣の目を真っ直ぐに見つめながら、言った。

 ぼくはずっとるいちゃんと暮らしたい。


「ほぉほぉほぉ。記憶が退行して更に大胆になったな。わしはお邪魔だろうからもう帰ろう。定期検査も行うが、また何かあったらすぐに電話してくれ。わしは電話を携帯しているので、二十四時間三百六十六日受付可能だからな」

「はい。ありがとうございます」

「ありがとうございます。お医者さん」

「ほぉほぉほぉ。おんし。あれだけ世話してやったのにわしを覚えていないとはこの恩知らずが」

「ごめんなさい」

「ほわあ~。かわいいな。おんし。ほぉほぉほぉ。かわいいかわいい」

「へへへへへ」


 見慣れた光景でもあり、異様な光景でもあるような。

 かわいいを連発する宰牙にも、照れくさそうに笑う禾音にも。

 瑠衣は静かに穏やかに、この光景を見守った。


「おんしも色々と禾音に対して思う所はあるのだろうが。可能ならば、いっぱい褒めてやってくれな。いっぱい褒めたからと言って、記憶が早く戻ると確約するわけではないが」

「はい」

「禾音。おんしもいっぱい瑠衣ちゃんを褒めるのだ。いいな」

「うん!いっぱい褒める!」

「いや。私は褒めなくてもいいよ」

「るいちゃん。かわいいかわいい」

「………」


 瑠衣は無言で宰牙を睨んだ。

 宰牙は掌を外に向けて肩の辺りまで両手を上げると、また来るなと言いながら横歩きのまま玄関へと向かったのであった。











(2024.7.22)




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