するするつるり
『るいちゃん。るいちゃん。どうして。どうして、ずっと。あいに、きて、くれない、の。ぼくが、きらいに、なっちゃ。ぼくが、おおきく、ゆさぶって。から。だから』
「禾音。ごめん。待たせちゃったね」
「………いや」
ここがどこで何をしているのか、現在の状況が把握できなかった禾音は、自分を見下ろす瑠衣をじっと見つめては、ゆるりと、周囲の景色へと視線を巡らせた。
空はほのかに明るく、遠方には緑の山々が連なっている。
ここは、どこだ。
身体を横にしている地面には、黄緑の短い草が辺り一面に生えている。
ここは、野原。
高台の野原。
「そう、か。おまえを待っている間に眠っちまったのか」
「そうみたい」
やおら上半身を起こし、片足を伸ばして、もう一方の片足の膝を曲げて座った禾音は、陽が沈むまでここに居ないかと瑠衣に言った。
意識が覚醒していないからだろうか。
もしくは、幼い頃の夢を見たからか。
それとも、記憶喪失のおかげだろうか。
すんなりと、瑠衣に誘い言葉をかける事ができた。
見下すような言い方をせずに済んだのだ。
「夜空を一緒に見ないか?」
「ごめん。報告書を大気分析家の塔に持って行かないといけないから、ここで一緒に夜空を見る事はできないけど。凪局長が用意してくれた平屋で一緒に見るじゃ、だめかな?」
「………」
素直な俺からの貴重な誘い言葉をいとも簡単に無下にするとはいい度胸だな。
仕事が遅いから俺の誘いを断る事になるんだ、仕事が向いてないんださっさと辞めて騎士団の事務員として働けばいい。
(いや。平屋で一緒に見るっていう言質を取ったんだ。それでよしとしよう)
すらすらつるりと淀みなく流れ出そうな言葉を何とか飲み込んだ禾音は、じゃあさっさと行くぞと、即座に立ち上がると早足に大気分析家の塔へと向かったのであった。
(2024.7.8)




