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第七話 謝するなら、罪を感じて、黒田の4。

 風呂上り、自室に戻り、PCをスリープ状態から起動する。

 濡れた髪にタオルを被せて、バサバサと乾かす。風呂上りの発汗にシャツがはりつくのがイヤで、上半身裸。予め除湿にしておいたエアコンで、体の熱が冷める感覚に心地良さを感じる。


(はぁ……泣いてたなぁ……)


 だが、心中(しんちゅう)の居心地の悪さは、いつまでも熱を持ったまま。外の雨音は、まるで責め立てるように、激しく鳴り響く。


 あれから、ずっと考えている事。風呂も、食事中も、下校中に傘の骨がひっくり返っても、考え続けた事。


(とおる)、女の子には、優しくな』


 今は亡き、祖父の言葉を思い出す。

(爺ちゃんゴメン、泣かせてしまった……)


 ネットでは『男の子も優しくされたい』なんて言って笑い話になるが、昔の人はなぜ『女の子には』と、限定したのだろう。

 他人に話せば、時代の違いだと、一笑に付されて終わること。

 だが今日、彼女が泣いた状況は、男に置き換えても泣くことはない、と思う。

(俺が知らないだけで、泣く男もいるのだろうか……)


 授業で聞きかじった『ジェンダー平等』という言葉。

 内容に何故か、笑ってしまった。見えているモノだけで『平等』などという、綺麗な言葉を使う社会に、危うさを感じたからだ。

(あぁ、きっと俺も……)

 彼女の危うさを『見えているモノだけで』判断した。普段シャキシャキと話す彼女が、たどたどしく話す姿を見て、決めつけた。

(俺がされて、イヤなこと……)

 だから『思い込みだろ』などと、あやふやな言葉で傷つけた。安易な言葉を、口にした。

 それがイヤで、他者との関わりを、最小限にしていたはずなのに……。


「はぁ……」

 ジェンダー平等という言葉。それが無ければ、ここまで考えなかった自分。何も考えずに笑った過去。考えてしまった現在。その先の未来……。

 どこまでも大人たちの手のひらの上のようで、嫌になる。


 PCの画面を見る。

 動画サイトのおすすめ欄。アバターを使った女性のライブ配信。タイトルに含まれる『恋愛相談』の文字列。なんとなく、カーソルが重なった。

 まさか、と思いつつも、さっき考えた事を思えば、聴かずにいられなかった。


『女の子はね、綺麗な()()を共有したいの! 大事(だいじ)()()は、独占したいの! わかる!?』


 ざっくばらんに語る配信者に、思わず笑って(むせ)て、カーソルが外れる。なんとなく欲しかった言葉に「おすすめ欄、恐るべし」と、認識を改める。

 その配信を改めて開き、高評価と登録をして閉じる。


(綺麗な()()ねぇ……)

 あの時、委員長がたどたどしく伝えようとしてきた事は、そんな『綺麗なコト』だったのかもしれない。

 絵の事を『すごい、すごい』と褒めてくれた彼女。それに対して自分は、昼休みに思い出した過去の事を引きずって、辛く当たってしまった。

 罪悪感で胸が締め付けられる。


 だと言うのに、自分には、再び絵を描こうという気が、起きない。

(テキトーに合わせて、楽しい作品作りでした。で、いいのかもしれない……)


 けれど。


(委員長が感じた『綺麗なコト』が、あの絵に込めた『俺の思い』だっていうなら、生半可で、受けたくない……)

 そんな、子供みたいな、駄々をこねる。


「はぁ……」

 矛盾する考えに、思考が止まる。彼女を知らなければ、どちらと選べない。


 気が付けば、外の強風は収まり、雨音も静かなものに変わっていた。


(罪、感じれば、お天道様(てんとさま)も責めはしない。あとは謝して、沙汰を知るなり)


 半端に古めかした一人遊び。それが今の自分に、丁度いい。


(そういえば……、委員長の独占したい大事なモノって、なんだろ……?)

 彼女の事を何も知らない自分では、知れようはずがない。ただ一度だけ見た、赤い唇を思い出しながら、眠りについた。

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