表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/14

第五話 情報過多な黒田 3。

「文化祭で出す美術部三年の自由創作、黒田君と組むことに決めたから」


「は?」


 日常が戻るかと思っていた昼休み。淀んだ雲が覆う空。委員長から、青天の霹靂な一言をもらう。

(曇天にソーラービームかよ……)

 窓を叩く強風。安直なギャグを抗議されている気分だ。


 委員長が、作品に興味を持っている。という事は想像できた。だから次に何かあるとすれば、昨日か明日『部活動に来い』くらいのものだと、思い込んでいた。

(あまかった……)


「詳しい話は放課後、美術室の前で」


 必要な事だけ簡潔に伝えると、委員長はそのまま、踵を返して教室から出て行った。

(あ、イヤな予感)

 などと考えるのも既に遅く、教室内はワーキャーと、勝手な噂話で盛り上がっている。

(後追いで教室出ても、悪手だよなぁ……)


「はぁ……」


 予想しうる最悪を、回避するために目を閉じる。頬杖をついて狸寝入り。関わるなモード。

 だがそれにも、重大な欠点があった。


 目を閉じたせいで、耳からの情報が多くなる。

「え、黒田くんってさ――」

「ホント!?でもさでもさっ――」

「だったら――」

 女子の、黄色などと生易しくない、鋭い警告色の声。

『トオルくんは、まだ子供だから――』

 そう言って『うふふ……』などと優しさで覆い隠された色と変わらない。

(『自分』には、無い、色……)

「なぁ、あれってさ――」

「よせよっハハッ――」

「このままだと、とられるじゃねーのぉ?」

「うっせっ――」

 男子の、(あざけ)り。

『ハッハッハ!トオルくんは若いなぁ!』

 そう言って決めつけ、下に置いていなければ笑えない。

(俺が諦め、立ち止まった、中身……)


 結局『俺』は……。


――パンッ! パンッ!


 手を打ち鳴らす音に、目蓋(まぶた)を開ける。


「ハァーイ! みなさま、ゴセイシュクにー!」


 見れば、トシが教壇に上がっている。


「皆々サマサマ、色々言いたいことはアローかとオモイます、がっ」

 拳を握り、神妙な顔をしている姿だけ切り取れば、真剣なスピーチでもしているようだ。


「小学校からのク年間! トオルの親友をさせていただいたワタシが答えましょうっ!」

 ふり絞るように、力を溜めて、カッと目を見開いて、トシはこう言った。


「トオルに女の影など! なぁぁぁぁぁぁいっ!!!」


 ビシリッと、トシの指が『俺』をさす。


 少しの間と、盛大な笑い。つられて自分も、笑ってしまう。

(今度、ジュースでもおごるか……)


「はーいはーい! せんせー!」

 と、クラスメイト女子Asが、トシに質問する。

「なんだね、浅村(あさむら)クン」

 トシもノリノリで教師役を演じる。

「じゃあなんでユイユイは、あんなに積極的なんですかー」

 ユイユイとは、委員長のことだろう、か?

「いい質問ダネ。……ワタシにもわからんっ!」

 キメ顔で返すトシ。それに対して、何故か女子全員で、非難の声とブーイング。


「まぁまぁ、そういうのは……ほら、女子の方が詳しいんじゃないのか?」

 と、ここで友枝(ともえだ)登場。後輩女子に大人気だという、爽やかスマイルだ。

 だが後輩には大人気でも、同級生女子達は特に意に介した様子もなく、お互いの顔を見合わせている。


「こーいうのは! やっぱ、みさとっしょー」

 そう言ってInに抱きつくSak。それに対抗するように、反対から抱きつく、浅村さん。慣れているのか、諦めているのか、Inに二人を引きはがす様子はない。

「井上さん、なにか知ってるの?」

 だが友枝が近づくと、慌てて二人を離そうとする。

(全員が意に介していない、ってわけでもないのか)


「あー、えーっと……。知ってるってわけじゃないんだけど……」

 やや歯切れの悪い、井上さん。

「――っと、――し、本――す――だから――」

 声が小さくて、聴き取れない。近づいた友枝ですら、頭をかいている。

(本、ねぇ……)

 少なからず聴きとれた言葉から、推察する。確かに、本に登場する人物から、現実の人を判断する。ということも出来るのだろう。ただ……。

(俺はあんまり、されたくないな……)


 そこで結局、トシセンセイの授業はうやむやと終わり、皆がなんとなく日常通りに戻る。

 自分も窓を眺めていようと思ったが、少しだけ気になった声を思い出して、三島と、濱田を見る。

 不貞腐れた様子の三島に、ゲラゲラと濱田が絡んでいた。


 時折吹く風が、窓を揺らす。

(帰り、折りたたみ傘で平気か?)


 一人遊びもやる気が起きず、そのまま午後の授業を待つ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ